ルームチューニング徹底解明

ルームチューニング徹底解明

□□ルームチューニングとは□□
ブーミング帯域(125Hz〜250Hz)の残響時間を、500Hz以上の帯域の平均残響時間より短くする。

その上で100Hz以下の残響時間を急激に上昇させることができれば、音楽の躍動感も急上昇する。

高音域の残響音は料理の調味料のようなもの、上昇傾向にすると音楽のクオリア(感覚質)が格段に向上する。

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部屋の響き

 CDに収められた楽器の音はホールの響きを含んでいる、だから再生音場
の響きは有害である。つまりオーディオルームは無響室が良い、と思っている方はまさかいないと思いますが・・、

 では部屋の響きを、どのような特性にしたら音楽が楽しく鑑賞できるのか? と書物を紐解いてみても、最適残響時間の表程度しか見当たりません。


残響の量/残響時間について

加銅氏・最適残響時間01
●参考文献 : リスニングルームの設計と製作例 P81 / 加銅鉄平 著 / 誠文堂新光社

 加銅鉄平氏の推奨値によると、残響時間の最適値は ●6畳:0.42秒 ●12畳:0.5秒 ●20畳:0.56秒です。一方サーロジックのHPの実測データによると、推奨値の半分強程度の部屋が大勢を占めています。何故これほどギャップがあるのでしょう?

 答えは単純明快です、フラッターエコーが喧しくて残響時間を短くせざるを得ないのです。例えばカーテン、例えば絨毯などの設置です。フラッターエコーを残したまま最適残響時間を達成すると、風呂場の風情の不快なサウンドになってしまいます。


残響の質について

残響の質World
●参考文献 : リスニングルームの設計と製作例 P72 / 加銅鉄平 著 / 誠文堂新光社

 上記”残響時間周波数特性の推奨曲線”の表によると、残響時間は低域と高域で上昇する特性が推奨されています。但しこの表が想定している室容量は住宅事情が厳しい日本のオーディオルームのサイズより、かなり大きい部屋であろうと推測できます。

残響時間の周波数特性(比率)
  日本家屋のブーミングの帯域が125Hz〜250Hzであることを考慮すると、20畳程度以下のオーディオルームで200Hzの残響時間が上昇することは許容できません。

 オーディオ的な爽快感を伴う透明度の高い低音を確保したうえで、響きと音楽とを融合させるサーロジックチューンの目標残響特性を右の表に示します。
  残響時間の理想周波数特性-折れ線01 

Original
石田さんorg01
デモパネル設置
石田さんLV01
残響時間
Original   LV設置
石田さん残響時間の周波数特性01
●RCのオーディオ専用ルーム
持参したLVパネルの量が足りず、ミッドバス(125〜250Hz)が上昇気味。音楽好きが好むアンサンブルの分厚さがある。しかしこの特性はオーディオマニアが心から納得する音とは一寸違う。


EVAさんリビング EVAさんリビングの残響時間の周波数特性
●とにかく音楽を楽しく奏でてくれる部屋。ブーミング帯域が下がり気味なのでオーディオマニアが好む爽快感が溢れている。

 ところでこの部屋でクラシック音楽を聴いたことはない、クラシック音楽の「優しさ溢れる音」「思いやり溢れる音」に陶酔したければ、やはり最適残響時間を追求したい。フラッターエコーが皆無のこの部屋であれば、残響時間が最適値を多少超えたとしてもジャズのグルーブ感が失われることはない。home8->

オーディオルームのような小容積の空間では 残響音より一次反射音が音場の質を決める

 スピーカーが送り出した音は3つの経路で耳に届きます。一直線で耳に届く直接音、壁などに1〜数回反射して耳に届く初期反射音、反射を無数に繰り返し、空間に飽和しながら耳に届く残響音です。

 コンサートホールなど大体積の空間では、空間に充満した残響音のエネルギーバランス(残響時間の周波数特性)が楽器の音色を支配します。

 一方オーディオルームなど小体積の空間では、1〜2次の初期反射音が個々の楽器やコーラス、ボーカリストの佇まいや感情の機微をシャープでスリリングなものに磨き上げる音質・音場の決定要素です。

 従ってオーディオルームでは、初期反射音の質の改善が再優先の課題です。

直接音:フラット。 ●一次反射音:ややドン・シャリ。 ●残響音:超低音がかなり強いドン・シャリ。 ・・ これが実現できたとき、オーディオ的な爽快感溢れるオーディオルーム完成です。


コンピュータ・シミュレーションが明らかにした 拡散反射音の振る舞い

 1980年〜95年のバブル最盛期に日本各地に沢山のコンサートホールが誕生しました、その設計支援のために(株)サーロジックがDSPシステムのハードウエアとファームウエアを設計・製作し、日東紡音響エンジニアリング(株)がGUIを開発して製品化した音場シミュレータが ”Symphony36” です。

 1991年に ”幾何音響理論に基づく可聴化音場シミュレーションシステム” として音響学会に研究論文を発表しました。
http://www.noe.co.jp/technology/03/03meca2.html

 その後”Symphony50”
で応用範囲を広げ、海外も含めゼネコン各社の研究施設に納品されました。そして音響学会に発表されたゼネコン各社のシミュレーションの成果がコンサートホールの設計法に多大な影響を与えました。その研究成果はリスニングルームにも応用できるものです。
鳥かご型音場シミュレータ シンフォニー50
Symphony スピーカー配置 Top View & Side断面 Symphony50
 頭が球の中心になるように座席を設けた直径3m程度の球体の全周方向に.、60°の間隔でSPを配置した鳥篭型の音場シミュレータ。反射音の経路(ホールの広さ)によるディレータイムと、内装材の吸音率で決まる反射音の周波数特性をコンボリュージョンで畳み込み、後部残響音を加えてから18個のSPで設計音場を再現するシステム。

 ゼネコン各社が独自のノウハウで畳み込みデータを算出し、各社のデータによる試聴の結果、一次反射音の高音域の一部が拡散反射するとの条件を組み込むと、現存の音の良いコンサートホールの測定データに類似する事が判明した。

<東京オペラシティー>


 コンサートホールの壁面は起伏に富んでいます。初期反射音の高音域を拡散反射させると、オーケストラの演奏に力強さと躍動感が付加され、音楽をエンジョイできるコンサートホールになると分かってきたからです。
--1----2-- NAGATA ACOUSTICS HOME

 そしてプライベートのリスニングルームでも、楽器の実音の領域(〜4kHz)の更に上の帯域の間接音を拡散反射させると、高音域の倍音が部屋中に散り嵌められて音の密度が上がり、録音現場の熱気が滲み渡る音場になることが多数の無償ルームチューンの結果から明らかになりました。

楽器に躍動する色彩感、陰影感、さらには 肉薄感をを与える拡散音の帯域は5〜8kHz

 ’さしすせそ’の無声音がはじけ飛ぶ部屋でマーチンのフォークギターを弾くと、マーチン独特の ” シャリ〜ン・・・ ” と響く繊細な倍音が美しく響きます。

 ’さ行’の音声をスペアナで観測すると、8kHzにピークがある事が分かります。

 トーンコントロールやグライコで、実音の8kHzを持ち上げると、繊細なはずのマーチンの音色が硬くて痛い音に変化します。

 一方ルームチューンで8kHzの拡散反射音を増やしてやると、マーチン固有の音色を変えることなく、マイルドでヌケの良い躍動感を付け加えることが出来ます。

’さ’の無声音
サ行の無声音

マーチンD-45

LVパネルの反射音の核は7kHz


 伊豆の鉄人Wさんの測定データを借用しました。一番上のグラフがLVパネル類似形状のWさん製作石パネル。2つ目が石の平板を平面に並べた石の平面パネル。3つ目がLVパネルです。

石パネル&LVパネルの一次反射音

 グラフのコメントによると、パネル正面から音をぶつけ、正面から斜め30度方向にマイクロフォンを配置して集音した測定結果です。

 LVパネルに類似した形状のグラフ一列目の石パネルと三列目のLVパネルは同じ傾向の一次反射音(拡散音)が観測されています。二列目の石の平面パネルでは拡散音が観測されておりません。

 石パネルもルームアコースティックをLVパネル以上にドラスチックに変貌させることを設置して確認しましたが、反射音のピークがLVパネルに比べ高域にずれているためでしょう、設置位置や角度の調整がとてもシビアで使い勝手に難があります。LVパネルのワンポイントリリーフに最適との印象です。

 7kHz前後の反射音は楽器そのものの倍音が増えたかのように作用して音楽を高揚させる要素を増やし、長時間ゆったりと音楽を楽しむ環境を作ります。

 一方8kHzを超える帯域はオーディオ的な爽快感を高める帯域で、ドラスチックに音のヌケを改善する効果が高いものの、増えすぎると神経を逆なでする喧しさが耳に付く帯域です。

 一気にハイになって音楽を体で浴びる聴き方をする、しかも短時間、という条件であれば増やし気味でも良いでしょう。

躍動感のあるサウンドステージを作るには

  7〜8kHzの初期反射音の帯域では、壁紙や壁布、石膏ボードさえも吸音材として作用します。消防法の制約で多くの部屋が石膏ボードで内装されており、大半のオーディオルームで7〜8kHzの残響音が大きく不足しています。

 オーディオルームの音のヌケを改善するには、不足している残響音の高音域、或いは残響音と類似の効果をもたらす初期反射音の高音域を増やせば良く、最も効果的な場所がスピーカーの斜め後方です。



 スピーカーの背後に水平拡散パネルを設置して初期反射音の高音域を増やしてやると、石膏ボードの高域吸音が混迷させていたハーモニーの透明度が上がり、輪郭と存在感が際立ったアンサンブルが姿を顕します。

 イコライザで高音域を上昇させると、楽器の音が硬くなり、その結果として明瞭度が上がるけれど煩さを伴います。

 音源はそのままに反射音の高音域を増やしてやると、楽器本体の音には硬さが出ず、むしろ円やかに柔やかに、しかし繊細な情報量が増えて明瞭度が上がり、聴き手を憩わせてくれます。音楽の躍動感が増してスリリングな緊迫感溢れる馥郁たる音楽を堪能出来ます。




石膏ボードなどの壁板振動

 加えてミッドバス(125〜250Hz)の響きを吸音すると、サウンド全体のモヤが晴れてサウンドステージに奥行きが現れ、音楽の説得力がさらに深みを増します。


 LV・SVパネルは、パネル表面のリブの段差とその幅が高音域を水平方向に拡散反射して楽器の音に解像度の高い密度感を与えます。同時に内部の構造と裏側の針葉樹合板が余分なミッドバスを吸音してボーカルのコモリに代表されるブーミングを解消します。


<SV, SVEパネルのミッドバス吸音特性 >




壁面が一体化して揺れる壁面振動

 石膏ボードや化粧合板単体が振動するとミッドバス(125〜250Hz)の振動音を垂れ流してミッドバスの残響時間が長くなりブーミングが発生することは多くのオーディオルームの測定結果で明らかになっています。

 更にそのボードを支える柱が弱いとき、一つの壁の複数のボードが、あたかも区切りになる柱が無いかのように一体化して大きな振動板を形成することがあります。

 この一体化した壁の振動が壁面一体化振動で、壁面一体化振動が発生すると、多くの場合振動周波数付近の残響時間に極端な長短の起伏が発生し、直接音も含めて振動周波数付近の音が耳に聞こえなくなる現象が発生します。例えばベースの音の特定のピッチが聞こえなくなるなど。

 この現象をそこそこ回避する対症療法は見つかっているのですが、実施例と測定数が少なくて、現象を解明するには至っていない。






フラッターエコー

天井のフラッターエコー

 日光東照宮、本地堂の鳴竜が有名ですが、床と平行、または、おわんをひっくり返した形のむくり天井の部屋や、切妻天井、船底天井のオーディオルームに必ず発生します。

 フラッターエコーは中音域に勘に障る喧しさを生み、サウンドステージが左右のスピーカーの内側に縮こまってしまうモノラール化を引き起します。フラッターを解消してフラッターレスの音を体験したときに初めて、その影響力の大きさに吃驚する筈です。


 フラッターを解消しない限り、ボーカルの佇まいが凛と引き締まって見える音場にはなりません。


反射性の平行壁

切妻天井

船底天井

フラッターエコーの消去

 
 フラッターエコーは平行壁面をなくせば消滅します。新築または大改築であれば、何はともあれ天井を傾けましょう。

スピーカー側からリスナー側に向かって上昇する傾斜角6度以上の天井は必須です。壁面は後付けのパネルなどで傾斜させることが可能ですが、できれば左右の壁をそれぞれ 3度(左右合計で 6度)傾けてください。

 長方形の既存の部屋であれば、吸音しまくりは音楽を壊してしまうので、フラッターが特に強いところだけを選んで少量の吸音材で部分吸音するか、ミッドバスの吸音も兼ねてSVパネルを裏返しにして斜め壁にするのがベストの結果を作ります。天井〜床のフラッターはスカラホールまたはピラミッド形のJoserが効果大です。

<スカラホール> <Joser>


切妻・船底天井には定在波も発生する
● オーディオルームの天井として、絶対に採用してはならない形状が右の二つ。フラッターエコーと定在波が重乗し、中低音域がやかましく、低音域が希薄なオーディオルームになる。
● 切妻天井では、体で感じる足元の低音が欠落し、音楽の安定感が欠われる。
● 船底天井では、低音に包まれるゆったり感は望み薄。


1/2波長の定在波を赤で示します。左右合わせた反射距離が5.7mであれば、床のエリアの音圧ゼロの周波数は30Hz
船底天井のオーディオルームを使いこなす
 船底天井のオーディオルームは低音域にトラブルが出ることが多いのですが、たくさんの事例から下記の共通項があることが明らかになりました。低音不足でお悩みであればお試しください。
 壁際のみ低音過多、その他のエリアは低音不足になる確率が高い。低音が頭上を飛び越えているように感じられる。
配置を90度変更すると過不足なくOKになることがあるが、理由は不明。音楽の躍動感やサウンドステージの立体感が不足であれば、A:音楽の躍動感が足りない参照。




初期反射音

1〜2次のデッドコピーの反射音が 伝送特性の撹乱要因

 伝送特性の凸凹は、スピーカーから耳にダイレクトに届く楽器の音に、正位相や逆位相の同じ楽器の音が重なったときに発生する。

 一度だけ壁にぶつかって反射した一次反射の楽器の音がスピーカーから耳に直接届く直接音の楽器の音の姿かたちに最も近いのだから、一次反射音が耳もとで実音と重なったときの正または逆位相の関係が伝送特性を凸凹にする原因の多くを占めると考えられる。

 下記3枚のグラフは壁面の反射率を 0.8、0.1、0 と変化させたときのリスニングポイントにおける伝送特性変化のシミュレーション。

<壁面反射率0.8の普通の部屋>


<壁面反射率0.1の普通の無響室>
位相干渉が激減して伝送特性ほぼフラット。定在波の影響はシミュレーションに含まれていないが、位相干渉と同じ比率で激減する。


<壁面反射率0の完璧な無響室> 反射音皆無なので位相干渉無し、定在波無し -> 伝送特性フラット


 伝送特性をフラット(SPシステムの周波数特性)にしたければ、死力を尽くして部屋中凡て吸音し尽くせば良い、と分かるのだが、吸音の大きさに比例して音楽の醍醐味である躍動感や感動が失われてしまうことを忘れてはならない、しかし手立てが無いわけではない。

 500Hz以上の帯域の吸音は音楽の躍動感をもぎとり演奏家の情熱を霞ませてしまうが、低音の包容力を失わないよう対策を組み合わせたミッドバス以下の帯域の吸音であれば大きな感動の喪失は発生しない。

伝送特性の自動補正の前にやることがある

 楽器の実音に最も近い形を保つ反射音は一次反射音。その姿かたちを楽器の実音と食い違わせてしまえば、位相干渉が減るのではないか? 

 下記左の写真は石膏ボードと合板を重ね合わせたフラットな壁面の部屋。右の写真は同じ部屋のスピーカー周辺にSVパネルやSTWパネルを設置した拡散反射壁の部屋。

 両者の伝送特性を同条件で実測すると、伝送特性の凸凹が小さいのは拡散壁壁の部屋。

 つまりスピーカー周辺の適切な位置に水平拡散反射壁を設け、直接音の楽器の形と一次反射音の楽器の形を違えてしまえば伝送特性が改善されるのである。


<一次反射を拡散すると伝送特性が滑らかになる> 詳細は181
<拡散なし平面壁>
<SV・STWパネルと和心で水平拡散>

<1〜2次反射壁のポイント>

●天井の(青)は吸音・拡散どちらでも良いが、吸音なら(スカラホール)、拡散なら(Joser)。その他の(赤)は水平拡散とミッドバス吸音(SVパネル SVEパネル)。

 例えばデジタル技術を用いたルーム補正で、リスニングポイントの凸凹になっている伝送特性をフラットに補正すると、本物の楽器に代わって楽器を演奏するスピーカーの周波数特性が凹凸になる。

 本物の楽器の音とは似ても似つかない変な音を出すわけで、破れた楽器で奏でる音楽なんて愉しい訳がない。

 ・・と思うのであるが、破れを減らすことができれば、フラット化による自己満足と、音楽の醍醐味である躍動感の体験や感動の体験を両立させることができる。それには水平拡散反射パネルとスカラホールがとても有効。





定在波

定在波がある部屋の伝送特性

 下記グラフは 1/48oct 間隔で 95種類の正弦波の純音をそれぞれ60波スピーカーに入力し、 前方2mに置いたマイクロフォンに届く60波一つひとつの音圧を計測したうえで、7〜60波目の音圧の平均を算出して折れ線グラフ化したものである(定在波成長の初期は音圧が変動するので 1〜6波目は除外)。

<グラフ1 : 定在波がある部屋の伝送特性>拡大(グラフの説明参照)

伊豆のWさん提供データ


定在波の発生と消滅

 伝送特性の凸凹の原因は定在波だけではないが、大きなピーク、大きなディップは定在波と推測できる。下記2枚のグラフは188Hz のピーク、113Hzのディップの観測波形。

 オーディオルーム内で、スピーカー正面2mの位置にマイクを置いて測定した波形が<グラフ2>の青色<定在波を含む音>。

屋外で、同じ 2m位置で測定した波形が<グラフ2>の赤色<定在波を含まない音>。

<グラフ2>は二つの波形のスタートポイントを一致させてPC上で重ね合わせたもの。

音圧の増加
<グラフ2 : 音圧の増幅 188Hz>拡大(グラフの説明参照)

伊豆のWさん提供データ

 スピーカーへの入力信号を切った直後に残る上記オレンジ枠内が定在波の減衰波形(残響音だけなら殆ど見えないくらい小さい)。

●188Hzの減衰波形の頭の部分の大きさと、直接音の大きさがほぼ等しい。
●オレンジ枠より左の加算波形が2倍の大きさになっている。

 以上から、直接音と定在波が同位相同音圧で加算され、伝送特性のグラフに約6dBの音圧上昇が起こっているはず、と推測できる。グラフ1の 188Hzのピークに一致する。

 188Hzのオレンジ枠内の定在波を前後反転して入力信号の頭の部分に加算すると青色の音圧上昇カーブと一致する。定在波の発達形状は減衰形状と同一で逆向きと推測できる。

音圧の減少
<音圧の減衰 113Hz>拡大(グラフの説明参照)

伊豆のWさん提供データ

 スピーカーへの入力信号を切った瞬間、オレンジ枠内の定在波が姿を顕す。入力信号と定在波が逆位相で加算され、音圧が激減していたことの証。

 113Hzのオレンジ枠内の定在波を前後反転して入力信号の頭の部分から引き算すると、青色の音圧減衰カーブと一致する。定在波の発達形状は減衰形状と同一で逆向きと推測できる。

定在波が強い部屋は伝送特性の自動補正厳禁

 入力信号と同じ大きさの逆位相の定在波があれば、入力音圧を10倍にすれば逆位相の定在波音圧も10倍になる。結果マイクロフォン音圧は常にゼロで伝送特性の自動補正は無限大補正になってしまう。自動補正でディップを上昇補正してはいけない理由である。

 伝送特性をフラットに整えたければ、何はともあれまず第一番に、壁・床・天井の 1〜2次反射のポイントの壁面を水平拡散反射性にして部屋固有の伝送特性の凸凹を可能なかぎり小さくする。それからデジタル技術を用いたルーム補正を行えば楽器の音の壊れ方を小さくできる。

 また、部屋にブーミングがあれば、ブーミング解消に最適な位置も一次反射のポイントに重なるので、SVパネルを設置すれば一石二鳥の効果がある。




100Hz以下は課題山積み

 100Hz以下の帯域は音の1波長の長さが壁面の幅を超え始めるので(100Hz:3.45m、50Hz:6.9m)、天井や壁面を斜めにしたとしても下記 3種類の課題が少なからず残ってしまう。

1.定在波による音圧の波状分布

 気温22度の音速は約345m/sec。6畳間の長辺を3.45mとすると、6畳間の縦方向に発生する定在波の中で最も低い周波数が50Hz(345÷3.45÷2)。

 6畳間の聴力が感じる

 低音の有り無しの体感に大きな影響力を持つのが下記図の1/2波長で、6畳間でリスニングポイントを部屋の中心に置くと、50Hzと67Hzのディップが目立つはず。

 リスニングポイントを後ろの壁に近付けると、67Hzのディップがなくなって50Hzのディップだけになる。

<音圧の波状現象に最も大きな影響力を持つ対向壁面定在波の音圧分布>赤が濃いところは音圧上衝、薄いところは音圧低下
6畳間の
縦方向1/2波長
基準振動モード(50Hz

横方向1/2波長
基準振動モード(67Hz) 
6畳間の
 縦方向1波長
振動モード(100Hz

横方向1波長
振動モード(134Hz
 6畳間の
縦方向2波長
振動モード(200Hz

横方向2波長
振動モード(268Hz

 新築のオーディオルームであれば幅の広いピークやディップを作る低次の定在波(半波長, 1波長)を低い周波数に追いやって楽器の実音から遠ざける(空間を大きくする)のが正攻法。

 既存の部屋を利用するオーディオルームなど、広くするのが無理であれば定在波の帯域を若干吸音するのが次善の策。上記グラフの濃淡の差が縮まって音圧のピーク・ディップが目立たなくなる。

<定在波吸音パネル STWF1500 STW1500>

<STW、STWFパネルの低域吸音特性 >


 広い空間の確保も、吸音パネルの設置も不可能であれば、定在波による音圧上昇が沢山重なる後ろの壁際にリスニングポイントを移動するのも有効な手段。

 定在波の低音は壁振動などとは異なり、楽器そのものの持続音なので、低音が豊かになって音楽の包容力を増すことが多い。つまり狭い部屋なら横使いが有利です。

2.直接音と定在波の位相干渉による   伝送特性の凸凹

<113Hz:逆位相干渉で-20dB>、<188Hz:同位相干渉で+6dB>



3.直接音と初期反射音の位相干渉による   伝送特性の凸凹

 100Hzより上の帯域の伝送特性の凸凹は、SVパネルの設置など、水平拡散壁を設ければ位相干渉が弱まって凸凹が小さくなり改善が可能。100Hz以下は吸音または壁の遮音性能を落とす以外の手法は2015年末時点では不明だが、吸音だけに頼ると「残響時間の周波数特性の推奨曲線」が理想とする低域上昇も比例して小さくなる。

<残響時間の周波数特性の推奨曲線>
<小さな部屋> <大きな部屋>
残響時間の理想周波数特性-折れ線01
●残響時間は低域で長くするのが理想とされている。理由は聴覚の感度が低く、倍音が鳴り終わった後に低音の響きが残らないと低音感が味わえないからでしょう。

 例えば音楽録音スタジオのモニタールームのように低域まで残響時間をフラットに整えてしまうと、演奏のアラ探しには打って付けだが、音楽鑑賞に無くてはならない低音の包容力が失われてしまう。




100Hz以下の定在波や位相干渉の消去は 低域増強とセットで行う

1.定在波による低音の波状分布は、吸音により定在波を減らせば平坦化する。

2.直接音と定在波の位相干渉による伝送特性の凸凹も、定在波を減らせば平坦化する。

3.直接音と反射音の位相干渉による伝送特性の凸凹は、反射音を減らせば平坦化する。

 オーディオルームのような小体積の空間では、吸音により部屋の響きが減ってアンサンブルを支える低音楽器の包容力が不足した場合、床エリアの初期反射音を増やしてやれば包容力が回復する。

 耳の高さより上の壁面の低域反射特性を超える低域反射壁を床付近に作れば良い。

 床に近い位置に限る低域反射音であれば、定在波や位相干渉が発生しても耳につくことはない。

 例えばブロックなど質量の大きいもので背の低い反射壁を作れば低音の包容力が増えるし、SV600で床まわりの水平拡散反射音を増やすことでも同じ効果が得られる。

<ブロック6段積みの例、3〜4段でOK、パネルの隙間に積み上げる>



<定在波吸音で低音楽器の包容力が不足したら、SV600で床レベルの拡散反射音を増やす>

〇印のSVU600は左右の壁面に押し付けても同じ効果です。