無償ルームチューニング 118

-118-

総合サムネイル
TOP Home お買い物 商品スペック お問い合わせ
  
右上にロフトがある傾斜天井の6畳間

 勉強部屋を占拠した6畳間横使いのオーディオルームです。後ろの壁に寄りかかる位置がリスニングポイントで鑑賞姿勢は正座です。

 学生さんの勉強部屋として作られた部屋ですから、壁はプラスターボードに壁紙で、叩けばドスンと響きます。その響の長さから、中空構造、或いは断熱材としてグラスウールが軽く入っただけの標準仕様の間仕切り壁であることが分かります。

 オーディオルームの壁は重さと強度のある揺れない壁がベストですが、それらが確保できないときは揺れを直ちにストップする仕組みを壁に作り込めばブーミーで退屈な音は回避できます。

 たとえばLVパネルやGallery waveパネルの構造を壁に仕込んでしまえば良いのですが、建物の改装にまで踏み込める例は非常に稀なケースです。

 改装せずに既設のブーミーな部屋(石膏ボードに壁紙仕上げの部屋は概ねこのレベル)をオーディオルームとして使うなら、ミッドバス(125〜250Hz)の振動音を吸音する必要があります。

 軽度のブーミーであれば、右図に示すLV1200パネルの標準配だけでブーミーなかぶり音が減少または消滅して、立体感のあるサウンドステージが得られます。

 本件の無償ルームチューンは、”LV1200sp×2” と ”LV1200ct” が既に設置されており、音楽鑑賞が普通にできるレベルからのスタートです。

 オーナーのご不満は
@:音の定位が左に偏る。
A:音楽の躍動感が足りない。
B:低音の延びが足りない。

など・・

  
@ : 音の定位が左に偏る

 左にガラスの反射壁があり、直接音と一次反射音の音道の差が50cm程度。時間差に直すと1.47msecです。

仮想の発音ポイント
 実音と鏡面反射音の時間差が2msec以内であるとハース効果が強く現れて仮想の発音ポイントがスピーカーの外側に作られます。

 ガラスにレースのカーテンが下がり、高音域のハース効果は改善されているのですが、定位のズレが気になってしょうがないボーカルの帯域(200〜500Hz)にはあまり効果がありません。

 また音域によってハース効果の量が変化する環境では、楽器の定位がふらふら動きフォーカスの定まらない再生音になります。

吸音では解決しない
 では、ぶ厚いカーテンでミッドバスくらいまでハース効果を殺せば解決か? さにあらずで、ボーカルの自然な佇まいや明瞭な存在感が失われて、改善より改悪が勝ってしまいます。



<右側には反射壁がなく、ハース効果は現れない>
 

 反射音の質を揃える意味で左にLV600を1枚、右にLVパネルを複数(写真参照)置いてセンターずれはほぼ解消されました。しかし右は通路ですから自立型として普段は片付ける工夫が必要です。

サイドパネルがステージの幅を広げる
 縦長配置も選択技の一つです。「縦長配置は体験済みで、ステージの幅が狭くなりすぎてボツ」とのことでしたが、左右一次反射付近にサイドパネルを置けば、ステージの幅が広がり体を包み込む低域の包容力もアップします。

1.-spパネルと-ctパネルを置き、バッフルにへばりついている楽器の音を空間に引き離してサウンドステージを作る。

2.サイドパネルでサウンドステージを壁の外側まで広げる。

 LVパネル、SVパネルが作り出す水平拡散反射音は視覚的な壁を取り払う効果が大きく、サウンドステージを正面の壁の更に奥・左右の壁の更に外側に広げることが出来ます。

 サイドパネルの高さは耳より若干低めが良く、正座であればLV600が良いでしょう。

 サイドパネルをSP側にスライドすれば効果が減少し、リスナー側にスライドすれば増加します。好みの広さ、好みの包容力に微調整することができます。
 
A : 音楽の躍動感が足りない

<@:スピーカーが目の前にあって音楽が鳴っている>と受動的に感じる音楽と、<A:スピーカーが意識から消え、アーティストの感性に引き込まれてしまって、奏者と一体化した躍動感・わくわく感が享受できる>という能動的に感じる音楽の違いが何処から生まれるのだろう? と意識しながら多数のオーデルオシステムを視聴させていただくと、徐々にその姿が見えてきます。

 結論として、縦長配置、横長配置、フリースタンディングを試したにもかかわらず、受動的にしか音楽を感じられないオーディオシステムでは、電気系をいかに弄ろうとも能動的に音楽に入り込める状況に変化する可能性は確信を持ってゼロ%と断言できます。

音の解像度はオーディオ機器の精度に支配される
 CDの読み取り精度の向上、D/Aコンバータのジッターの減少、アンプの過度レスポンスの向上、等々、オーディオシステムの物理特性を改善すると、分離に分類される楽器間の解像度が上がります。

 アンサンブルの和音の構造が明瞭で残響音の動きが見えるオーディオシステムはサウンドステージが確立されています。そこに物理特性の向上が加わると、音楽に勢いが増し、演奏家の緊張感や演奏のスリリングさが見えるようになって努力が十分報われます。

 しかしサウンドステージ無しでこのカテゴリーをとことん追求すると、和音の中に組み込まれるはずの内声部の音たちが我が物顔にバッフル面にしゃしゃり出てしまい、ソリストやコンダクターの阿吽の呼吸が織り成す間合いの美が掻き消され、曲のテンポが上がったように聴こえる、落ち着きの無いサウンドが出来上がります。クラシック再生では致命的な欠陥です。

サウンドステージの完成度は、
@:ボーカルに、きちんと立ち上がっている立体的な佇まいがあるか。
A:低い位置で演奏する楽器が低く定位しており明瞭な存在感があるか。

の二つでおよそ判定できます。この二つが曖昧であればサウンドステージは完成しておらず、音の解像度の追求=スピーカーやアンプのとっかえひっかえに陥り、散財の原因になります。

音楽の解像度はオーディオルームの完成度に支配される
 音楽の解像度が高いシステムではアンサンブルの和音の構造が良く分かります。各パートが立体的に折り重なりつつも分離良く聴こえます。しかし内声部はあくまでも全体の響きの中に溶け込んで、決して目立ちすぎることはありません。人の心を動かす力が漲った解像度です。

 そしてこの解像度が確立されたオーディオシステムでは、張り詰めた緊張感の中に間合いの静けさが加わって、曲のテンポが遅くなって聞こえます。クラシック再生では非常に大切な解像度です。

残響音を分離すると音楽の解像度が上がる
 音楽の解像度を上げる原材料はCDなどの音源に含まれる演奏を取り巻くホールやライブハウスの初期反射音や残響音です。センスの良いエンジニアが付加した人工的なリバーブも同様です。

 この響きの成分を楽器の実音に重ねて定位させると実音の鮮度が落ちて音楽の躍動感が失われるのですが、響きの成分だけ分離して実音の背後に廻り込ませると、ボーカルや楽器に距離感を伴う陰影がついてきちんと立ち上がっている凛とした佇まいのボーカルが姿を現します。これがサウンドステージです。

 LVパネルやSVパネルは、残響音のみ、その表面に引き寄せる構造です。実音を引き寄せる効果を持たないため、実音が前、響きが後ろに廻り込む立体的な音像が姿を現します。佇まいの見えるボーカル、陰影のはっきりした楽器の前後が分かるオーケストラなど、音楽の躍動感に溢れたオーディオシステムが出来上がるのです。

 そして嬉しいことに、サウンドステージはミニコンポからハイエンドまで、分け隔てなく恩恵を与えて音楽の解像度をアップします。

LVパネルで音楽の躍動感を高める方法

 躍動感不足の2大要因はミッドバス過多と、壁面が跳ね返す音の拡散不足です。

ミッドバス帯域(125〜250Hz)の残響(振動)音過多がブーミーの原因
 RC打ちっ放しの部屋では125〜500Hz帯域の残響音過多、プラスター(石膏)ボードの部屋では125〜250Hz帯域の振動音過多の症状が出ることが多く、ブーミーなかぶり音が発生して音楽の躍動感を損ないます。

 躍動感を取り戻すには過剰なミッドバスを元から絶つのが正攻法ですが、壁面を解体する改修工事は中々踏み切れるものではありません。次善の策が過剰分の吸音です。しかしこれも中々難しく、実用的な厚みでミッドバスの吸音が可能なものは、LVパネル、SVパネル、Galleryパネル、ラスク、くらいなものでしょう。

 ぶ厚いグラスウールもミッドバスを吸音しますが、ミッドバスの吸音量以上に中〜高音域を吸音するため、相対的にミッドバスが上昇したのと同じになってブーミー感は解消しません。高音域の残響音が失われて音楽の躍動感のみ明確に後退します。

中・高音域の拡散不足が、躍動感・立体感不足の原因
 ステージ上の楽器の前後関係まで分かる佇まいのはっきりしたサウンドステージを再現すれば音楽の躍動感が確実にアップします。その方法はボーカルや楽器の実音から、残響音の成分を分離抽出して実音の背景に定位させることです。

 LVパネルやSVパネルのような水平拡散体をスピーカーの背後に置くことで得られる効果ですが、実音の定位にはほぼ感知せず、残響音のみを引き寄せる水平拡散音の効果によるものです。

自作パネルで立体感を体験することができる
 ブーミーなボンツキ音が少ない部屋であれば、ホームセンターで売っている風呂場の床に敷く -「すのこ」- でも拡散音の効果を体験することができます。板の幅が広すぎるので丸ノコで縦割りを入れて完成です。中心を外すのが成功の秘訣。

 自作パネルも表面の凸凹をLVパネルと同形状にすることでサウンドステージを体験することが出来ます。但し、中・高音域の拡散音が効果的に働くには、ミッドバスの残響時間がフラットまたは若干短縮されていることが必須の要件であり、総ての部屋に当てはまるわけではありません。



パネルの高さが躍動感の質を決める

 正座または胡坐(あぐら)の姿勢に最適なスピーカーパネルの高さは1500mmで決定です。1800mmも試したのですが、1200 -> 1500で密度を増した躍動感が -> 1800 では拡散し過ぎて音楽が散漫になることが分かりました。

本件より部屋が広い下記正座の例でも
スピーカーパネルは1500mmがベストであった


スピーカーパネルの最適背丈
 -spパネルの最適背丈は、部屋の広さや天井の高さには影響されず、単にリスナーの耳の高さで決定される。
---------------------------------------------------------------------
正座など椅子なし : 1,500mm
---------------------------------------------------------------------
椅子あり : 1,800mmがベストだが、1,500mmでもそれほど見劣りしない。
---------------------------------------------------------------------

 本件のような小型スピーカーの場合、1,200sp によるチューニングで「十分満足できる音になった」と思うはずです。しかしまだ上限にはとどいておらず、1,500sp & 1,800sp を体験してしまうと通常1,200spには戻れません。

センターパネルの最適背丈
 -ctパネルはボーカルの口元の高さを決めるため、部屋の広さ・天井の高さ・着座形態とは係わりなく1200〜1300mmが最適値です。
---------------------------------------------------------------------
正座など椅子なし : 1,200mm
---------------------------------------------------------------------
座面の低い椅子あり : 1,200mm
座面の高い椅子あり : 1,300mm
---------------------------------------------------------------------

サイドパネルの最適背丈
 いつから定説になったのか不明ですが、オーディオ雑誌によると必ずと言って良いほど 「吸音せよ」 と書いてある一次反射のポイントあたりに置くパネルです。LV,SVパネルの場合、900mmが標準サイズです。

 パネルを手前(リスナー側)に引き寄せれば音楽に包まれる抱擁感が増大するのですが、抱擁感の好みには個人差があるので、サイドパネルをスライドして最適位置を割り出します。窓との取り合いでパネル位置が固定される場合は背丈の上下で包容力をコントロールします。

---------------------------------------------------------------------
正座など椅子なしの標準サイズ : 600mm
---------------------------------------------------------------------
椅子ありの標準サイズ : 900mm
---------------------------------------------------------------------

サウンドステージを熟成するGallery basso
 低い位置で演奏する楽器に低い定位と明瞭な存在感を与えます。LV300で代用できますがサウンドステージの高さが若干犠牲になってシンバルなど、高音楽器の定位が低めになります。


 LV・SVシリーズの場合、上下端に化粧の枠をはめると水平拡散の特性が乱れてしまうのでパネルの周囲に飾り枠を付けることができません。リスナーに最も近いパネルなのでインテリア性にもこだわった作りのBassoをお勧めします。

 サイドパネルとBasso(バッソ)はスピーカーパネルの特性を引き立てる女房役であり、スピーカーパネルなしの単独設置はその効能が生かされません。


B : 低音の沈み込みが足りない

 低音の延びや沈み込みの最大量は壁強度と壁重量に比例します。LVパネルの設置は壁重量増に匹敵するので、設置前に比べれば低音の豊かさが改善されたものと思います。

 ところで一般的な木造の建物の場合、低音のエネルギーを跳ね返すほどの壁強度は考慮されておらず、むしろ天井や壁が低音のエネルギーで振動し、音エネルギーが熱エネルギーに変換されて沈み込み不足になるケースが大半です。

 壁面に重量ブロックを積み上げる、Gallery waveで壁面を覆ってしまう、など低音の沈み込みを深くする手段は複数ありますが、2Fであることとコストパフォーマンスを考えたとき、ルームチューンの写真から背面パネルを省いた程度のLVパネルを設置するあたりが落としどころでしょう。

 下記写真はGallery waveで大半の壁面を覆った事例です。壁の作り直しを提案したのですが大工仕事になるためオーディオ販売店の賛同が得られず却下、30枚強設置されていたQRDが下取となってGallery-waveで埋め尽くした部屋です。



 測定結果にも表れている通リ効果は絶大でしたが、強度と重量のある傾斜固定壁には当然敵いません。2年半後、再度の改装でこのGallery-waveも外され、二つに切断されてオーディオ店のサイトに中古で出ていました。商売上手ですね。

低音の沈み込み量の最大値は躯体構造で制限される
 例えば下記写真の部屋は雑誌やネットの紹介事例が複数あり、ご存知の方も多いと思います。木造の部屋にJBLで構成された大型システムが置かれた例です。一般にバッフル面が大きいとバッフルに音が張り付いてしまい奥行きが出ないのですが、その大きさを感じさせない音離れの良さと、誇張のないとても自然な佇まいが特徴のシステムです。



 NY住まいが長く、マンハッタンのライブハウスの音を追求して出来上がったサウンドとのことです。躯体がコンクリートのライブハウスの低音を期待するのは無理がありますが、木造の限界点まで使い切った音造りで、とても上品な仕上がりです。

 あるブログに下記の記載があることを知人が教えてくれました。
 「・・・体型が逆三角形に近いくらい低域の抱擁感を押さえた音。」

 このブログの主催者の部屋にお尋ねしたことはありませんが建築途中の写真から躯体構造がわかります。
http://plaza.rakuten.co.jp/afublog/diary/200611100000/

 壁面の床付近がRCの完全反射、上部は木造。オーディオルームの理想形状の一つと言えます。きっとバランスが取れた再生音を奏でているに違いありません。RC部分がリスナーの足元を低音で支えます。この部屋の音に馴染んだオーナーが木造の二階のオーディオルームの音を聞くと低域の抱擁力不足を感じるでしょう。

豊かな低音は豊かな壁質量が支えるのです。

床の荷重強度が許せばフロントの壁面周辺にブロックを積むと効果てきめん、低音域に厚みが増して音楽の土台が安定します。