実践・オーディオルームの設計施工

世界に一つのリスニングルームを作ろう
こんなに面白いこと、他人に任せちゃもったいない

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オーディオルームの基本設計

バブル経済真只中の1970年代のレコード会社のスタジオは、当時の知見を余すことなく詰め込んだ金に糸目をつけないバブリーな設計を行い、広葉樹の銘木を惜しげもなく内装に使って理想のスタジオを作りました。

しかし完成して直ちに大満足のスタジオであった、なんてことは稀にもなくて、多くの部分で解体と再構築が発生しました。昨今では入手も難しいような高価な材が大量にゴミになったのです。

そん経験からバブル期以降のスタジオの作りは完成後に手直しすることが前提のシンプルな施工になりました。業務用のスタジオでも一発OKは追求しない、運用しながら手直しをする、が主流になっています。

個人のオーディオルームも同じ手法を真似れば良く、初期設計は下記3点だけクリアすればOKです。

1.フラッターエコーが発生しない形状
向かい合う壁面は(左右、前後、上下)両側合わせて6度以上傾ければOKです。左右壁面はそれぞれ3度。フロントと床は平面以外選択できないので、天井6度以上。リアもパネル状のものを6度以上角度を付けて配置するとパーフェクトです。

2.太い柱を910mm間隔に配置する
住宅の柱は4寸(□120mm)が標準です、一方4寸の柱が低音の加振に耐えられる天井高は150cmあたりが限界値。

4寸の柱で天井高300cmの部屋を作ると、限界振動の8倍(2の3乗)の壁揺れが発生します。4寸x8寸(120mmx240mm)の柱を使うと限界振動の1に戻ります。天井高が4.5mなら限界振動の27倍(3の3乗)の壁揺れが発生し、1に戻すには 4寸x12寸の柱が必要です。注意事項ですが、左右の柱のトップを梁で連結しないと振動は止まりません。


3.防振構造の壁材
尾を引く低音の原因は壁振動です。太い柱と振動しない壁材を組み合わせれば、ベースやバスドラムの音が、ボンボンする、尾を引く、などの曖昧な低音にはなりません。

<Matrix200>


壁材の条件は壁材自身に防振構造を組み込むことが重要で、壁裏の吸音材を壁に押し付る方法は次善の策です。効果なしではありませんが大きな期待は禁物で、防振材の経年変化で残響時間(振動時間)の低音域が大きく変化する危険性を内包しています。いつの間にかボンツキが増えていることがあるので要注意です。

ボンツキの吸音場所を確保する
不幸にしてボンツキが出てしまったらボンツキの帯域を吸音する以外に改善の手立てはありません。もしもに備えてSTW1500の設置場所を確保しておくと安全です。

ベースとバスドラのボンツキは壁振動の60〜80Hzが原因で、大量に発生するとバスドラムの音がダンボール箱を蹴とばしたときの音になります。

定在波
壁を傾けても定在波は減りません、30畳を超えるような吹き抜け天井の部屋であれば、定在波の半波長共振が 30Hz 以下になるので低域の吸音処理無しも可能ですが、小さな部屋の場合、定在波による伝送特性の凸凹から逃れたければ 100Hz以下は吸音が必須です。

ところで、定在波による低域の乱れと、壁振動による低域の乱れは全く別物です。定在波は低音が多いエリアと少ないエリアがまだらに発生するだけで、ベースやバスドラムの音が、ボンボンする、尾を引く、などの曖昧な低音とは無関係です。定在波は壁際に低音を増やすので、壁際にリスニングポイントを設ければ音楽鑑賞の大きな障害にはなりません。リアルな低音であれば多くたって音楽の包容力が上がったと思えは許容範囲です。

但し音楽制作のスタジオでは音域による音圧のバラツキがMix作業の障害になるのでSTW1500が必須のアイテムです。

以上が棟上げ前に完了または考慮しておくべき課題です。



内装

床材
基礎と土台をアンカーボルトで固着し、壁が低音で押されても土台の根元が動かないことを確認し、4寸(□120mm)の大引きを910mm間隔で基礎に固着すれば床の強度は盤石です。

下記マトリックス構造の大引きであれば、24mm以上の構造用合板とフローリング材の貼り合わせで必要十分な強度が得られます。壁や天井の強度と比べて床だけ飛びぬけた強度にする意味は全くありません。

910mm間隔で独立基礎に固着した大引きの振動強度は、4寸の柱を910mm間隔に配した天井高2.7mの部屋の壁強度との比較であれば、床振動は壁振動の 27分の1 です。



壁材
柱間隔910mmのとき、そこに貼られた石膏ボードや化粧合板は150〜300Hzで共振して持続的な振動音を部屋中にまき散らします。ボーカルの鮮度を台無しにするブーミングの発生原因です。

ミッドバスの振動音はSVEパネルで確実に吸音できるので、度を越した振動音でなければSVEパネルを設置して及第点の音場を作ることが出来ますが、振動音がゼロに近い剛体の部屋のレベルにまで到達できるわけではありません。

吸音パネルの必要枚数は振動音の量に比例するので、躯体設計と壁面設計のバランスが良ければSVEパネルはフロント側の基本配置のみ(赤のパネル)で済みます。

<SVEパネル>

マトリックス構造のマス目は、壁板が縦に長く連続して延びるのを防いでいます。縦に長い大きな面積の壁板が振動すると、振動の周波数が低域にシフトしてバスドラムの音がダンボール化します。

STW1500パネルを設置すれば100Hz以下の振動音を吸音することができますが、低域にシフトした壁振動音はそのエネルギーが大きくなりがちで、STWの数が増えて置き場所に困ります。

<STWパネルの低域吸音特性>

マトリックス構造は振動面を910mmの正方形に区切っているので、振動音が出てもミッドバス帯域に収まります。



天井材

天井は強度を上げるのが難しく、多くの部屋で天井の振動音が低域過多や低域不足の不具合を誘発します。支え不足の板張りの低域振動が原因なので、板をやめることを提案します。

2x4材の大きさ以下の角材を、若干の隙間を開けて、長さ方向が前後になるように並べる方法なら、まず軽いので職人さんが楽。一本々の幅が狭いのでベースやバスドラムの音により揺すられても低域の振動音が出ない。

揺れが許されるので、強固な防振構造が不要になり、居間と同じ造りの断熱構造に桟木を並べればOKです。

天井の桟木は必ず前後方向に流してください、下記写真は左右方向に桟木を流した音響的には失敗例の一つですが、極上の男の隠れ家です、サムネール136に失敗の理由も記載があります。天井のイメージの参考まで。

<136>



低域が欠落する部屋、低域が溢れる部屋、その原因 

CM音楽スタジオ〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇エンジニアの〇〇と申します。
現在、スタジオ内のルームチューニングで
御社の知恵とパネルとお借りして良くしたいと思っております。

購入するのに適所に合わせるのにデモさせていただければと思いましてご連絡させてきただきました。

詳しい内容は電話でもご相談したいので一度ご連絡させていただければ
と思います。

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電話によると、後ろ壁際のエリアに低音が無いとのこと。
営業スタジオでは通常クライアントが座る席なので、営業的には大きなマイナスポイントでしょう。

定在波が原因であれば壁際は低音が溢れるはず、定在波が原因ではない。

せめて写真くらいないと原因の推測すら難しい、写真を送ってもらいました。


(フィルター加工してあります)

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お待たせしました。やっと手が空きました。下記をご確認いただいてご希望に変更がなければ予定を組ませて頂きます。

写真を拝見した結果、クライアント席の低域欠如は下記ページの症状の逆パターンで間違いないと思います。数の多い症例です。

45Hz前後で振動する左右の壁からの振動音がリスニングポイントでスピーカーの低音と同位相で重なる。内臓をを揺さぶる低音が溢れる部屋。

直接音と壁振動音がクライアント席でたまたま逆位相で重なって低音が打ち消されているのです。

どの壁が原因を作っているのかによって対応が異なりますが、天井の場合は天井を作り替える以外、手の打ちようがありません。

それ以外(左右、前、後ろ)であれば、SVE1800 (ツキ板)パネルを用いて壁面を覆うように並べれば改善いたします。

<SVE1800(ツキ板)>


ツキ板はウオルナットに限らず樹種を選べます。

●壁を覆うパネルが低音を吸音して壁を揺らすエネルギーが小さくなる。
●壁揺れが出す振動音をパネルが吸音して室内に出回る量が減る。

の二つの効果です。

そこでお尋ねしますが、プライベートではない営業スタジオの美観を考慮するとき、●パネルで壁面を覆うことが許されますか? ●建築工事で壁面を作り替えるのに比べれば安価と思いますが、パネルの数が10〜20枚になったとき、費用負担が可能ですか?

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返信が無かったのでお流れになった案件です。
  

<Thumbnail-165>


バズケロさんの例のように極々稀に嬉しい結果を授かることもあるのですが、「低音が少なくてつまらない音の部屋」「低音がだぶついてブーミーな音の部屋」など々、押しなべて壁揺れは再生音に重篤なダメージを与えます。リスニングルームを新築するのであれば、壁揺れは絶対に許さない。設計の大原則です。
  


otoさんのオーディオハウス

 昨年(2008)6月4日の地鎮祭から建設が始まり、2ヵ月後の8月初旬竣工、続けて9日〜10日にStainVeilパネルとLVパネルによる反射音の最適化とミッドバスの吸音を実施し、8月12日に完成まであと一歩のレベルに達したピュアオーディオ専用のリスニングルームです。その後 otoさん自らの改修の繰り返しと、パネルチューン・測定を繰り返し、1年4ヵ月後の09年12月15日のルームチューンで完成と相成りました。その経過を時系列に並べた測定データによりご紹介します。

撮影:2009年12月15日


otoさんのオーディオルームの伝送特性
 部屋が無響室であればリスニングポイントの伝送特性はスピーカーの周波数特性と一致します。しかしリスニングルームは有響室なので、例えスピーカーが一直線のフラットであったとしてもミッドバス以下の帯域に位相干渉と定在波に起因するウネリを生じます。
撮影:2009年10月28日


<グラフ 1>
otoさんのオーディオルーム・リスニングポイント 1/3 oct 伝送特性  測定:2009年10月28日


中高音域にも位相干渉による伝送特性の凸凹が存在するが1/3octの棒グラフに束ねてしまえば見えなくなる。

1/3octより狭い幅のピーク・ディップは聴覚の検知限界を下回るので、左のグラフが聴覚が感じる伝送特性。

 31.5Hz、125Hz に位相干渉によるディップ、または定在波によるディップがある。

 otoさんのブログを見たらリスニングポイントの伝送特性として後ろの席のデータが誤掲載されていた。左のグラフがリスニングポイントの真の特性。otoさんのオーディオルーム新築記

 otoさんのブログに 「アンプ等の機器は何でも良いんだよと言う村田氏の口癖を証明する結果となっています」 と業界から村八分にされそうな記述があります。LVパネルによるルームチューンの費用は20万円前後、中・高グレードのオーディオシステムの価格に比べれば1/10〜1/100のコストです。この金額で外科手術のような効果が期待できると村井裕弥さんが体験談を書いています。

 オーディオ機器のように見せる醍醐味だって重要な趣味の世界にも、使うお金と期待する価値とのバランスを重視する消費性向が浸透してきました。その尺度で見れば、ルームチューンに比べて1/10〜1/100の効果しか期待できないアンプなど何でも良い、とも言っても過言はないと私自身は思っています。

 ルームチューン、電源チューンで入れ物の音楽表現力を高めてから冷静な耳で機器選びに専念すれば、機器のとっかえひっかえに代表される無駄な投資は大幅に減るでしょう。借金してまでアンプを買ってはいけません、期待と得られる価値のバランスが悪すぎます。オーディオ機器で借金に値するのはスピーカーだけでしょう。

 随分古いラッカー盤時代の話で恐縮ですが、1970年代当時、私が東芝EMIでレコーディングエンジニアをしていたころ、自分の担当アーティスト以外の海外のクラシック音源などのマスターリングEQの補正値の指示も私たちの仕事でした。

 数は忘れてしまいましたが、アナログLPのスタンパにはプレス回数の制限があり、出荷数が限界を超えるとラッカー盤から再カッティングになります。

 初版の音楽誌評を見て<シェルビングEQで高域を+0.5dB>などとカッティングマンに指示すると、評論家の先生のペンのタッチが変わります。「今回のカッティングは実に素晴らしい、音のヌケが格段に向上した、カッティングマシンの性能向上には目を見張るものがある」。等々・・です。

 アンプによる高音域の変化は+0.5dBのEQに匹敵する音質の変化くらいは期待できます。しかしルームチューンによる音場改善から得られる、<佇まい><奥行き><立体感><躍動感>などの、音楽表現を豊かにして再生音場を演奏会場の次元に引き戻すルームチューンの効果と比べればかなり低い次元の効果です。

 プリアンプに0.2dBステップで±2dBのシェルビングEQを復活すれば(GEQは×)アンプを換えたい、ケーブルを換えたい、という煩悩を大幅に減らすことができると思うのですが、商売に逆行する願望は望み薄ですね。

 

 オーディオルームを無響室のようにデッドに仕上げれば伝送特性は限りなくフラット(SPの特性)に近付くが、楽器の存在感が欠落した単なる音になってしまう。

 一方そこそこライブに仕上げれば、伝送特性は波うち、如何にも音が悪そうに見える低域特性になるのだが、豈図らんや対照的に豊かな表現力を得て躍動感たっぷりの音楽を奏でてくれる。

 otoさんのオーディオルームはサーロジックのデモルームとしてラフスケッチが出来上がっていた図面を基に、建築現場の状況を加味した修正を加えながら完成したプレ・デモルームです。

 私(村田)の持論として、木造の場合、位相干渉や定在波が再生音に与える影響は大きなものではなく、机上設計で検討する必要はない。と考えていたので、位相干渉や定在波による伝送特性の乱れを予測して回避する策を講じて設計したものではありません。しかし<グラフ1>のように十分満足のいく伝送特性を得ることが出来ました。



伝送特性シミュレーション

位相干渉のシミュレーション
 斜め壁、傾斜天井のため、部屋の大きさは平均値です。反射音の低音波も無指向に広がるため、平均値でも大きな誤差にはならないようです。

 本件シミュレーションの計算条件を<表1>に示します。部屋の大きさが設計図面と異なるのは、室内に積み上げたブロックやパネルの厚みを考慮した結果です。

 部屋の反射率を0.7と小さく設定しました(シミュレータのデフォルトは0.8〜0.9。本件の残響時間の実測データによれば0.9〜0.95が妥当)、壁にぶつかった低音波の全てが鏡像法に従って鏡面反射するわけではないからです。拡散してしまうのだから反射率、反射回数共に少なめが実測値に近かろうと推測した結果です。

<表1> シミュレーションの部屋サイズ・計算条件


<図表1> シミュレーションのSP配置・リスナー配置(伝送特性の実測環境と同じ配置)


 反射音の反射回数2回、4回、6回のシミュレーション結果を<グラフ2〜4>に示します。伝送特性の実測グラフ(グラフ1)でディップとなっていた 31.5Hz、125Hz と思われる場所にディップがあり、ます。

<グラフ 2> 反射回数:2


<グラフ 3> 反射回数:4

<グラフ 4> 反射回数:6
 上記シミュレーションでは定在波による伝送特性の乱調は考慮されていません。

定在波(部屋の固有モード)のシミュレーション
 <表2>が定在波に係わる部屋の固有振動モードの100Hz以下を一覧にしたものです。説明が容易い代表的なポイントは、モード欄に’1’が一つ’0’が二つの基準振動モード(1/2波長の固有振動/No.1No.2No.3)で、部屋の前後、左右、上下の中心点で伝送特性を計測すれば深いディップが確認されるはずです。

<表2>



 <No.1>は、部屋の前後の真ん中に25.3Hzの伝送特性のディップが発生することを示していますが、リスニングポイントから外れているので無害です。

 <No.2>左右の真ん中35.1Hzの伝送特性のディップが発生することを示しています。リスニングポイント上なので、実測データに現れるはずです。

 <No.3>上下の真ん中に43Hzの伝送特性のディップが発生することを示しています。リスニングポイントから外れているので無害です。

 次にモード欄に’2’が一つで’0’が二つのNo.6、No.11、No.17が1波長の固有振動で、前後・左右・上下の真ん中のポイントで伝送特性にピークが発生します。リスニングポイントと重なるのは左右の<No.11>だけで、70.2Hzに伝送特性のピークが発生するはずです。

 また1波長の固有振動では、センターと壁の中間位置にディップが発生するので、着座位置が後壁から1/4の距離に近いNo.6の50.6Hzがディップになる可能性ありです。

<グラフ 5> リスニングポイント 1/6 oct 伝送特性

16, 17.5, 20, 22, 25, 28, 31.5,
35, 40, 44, 50, 56, 63, 70, 80, 88, 100, 111, 125, 140, 160, 177, 200, 223, 250, 281, 315, 354, 400, 445, 500, 561, 630, 707, 800, 891, 1k, 1122, 1.25k, 1414, 1.6k, 1782, 2k, 2245, 2.5k, 2828, 3.15k, 3564, 4k, 4490, 5k, 5657, 6.3k, 7127, 8k, 8980, 10k, 11314, 12.5k, 14254, 16k, 17959, 20k, 22449, 25k

 リスニングポイントに於ける伝送特性を1/6octで表示したものが<グラフ5>。

 実測データを見ると、35Hzがディップ、70Hzがピーク、になっており、コンピュータ・シミュレーションの35.1Hz・70.2Hzと、ピッタリ一致する。

 なお、ヒトの聴覚が感じる伝送特性は 1/6 oct より 1/3 oct に近いので、<グラフ1>がotoさんのオーディオルームの聴感伝送特性。

 <グラフ1>によると、31.5Hzにディップ、 63Hzにピークがあるが、音楽鑑賞にダメージを与えるような伝送特性の乱れではない。

 定在波や位相干渉を避けようとして部屋をデッドにする。前後・左右・上下の中心を避けようとして非対称(注1)な場所にリスニングポイントを設定してセンター定位がずれるのを我慢する。などは本末転倒。

注1) : 左右壁面を伝ってリスナーの背後に回り込むCDなどの音源に含まれる残響音の音圧が左右非対称になると、音源自身に含まれているサウンドステージを作り出す残響音の能力をスポイルしてしまい、サウンドステージの奥行きはもとより、ボーカル・楽器の佇まいもウスッペラな平面になって音楽の説得力が大きく低下する。
 

位相干渉と定在波は結果に類似性はあるものの全く別の現象
 位相干渉による伝送特性の凸凹はシミュレータで予測できます。部屋のサイズをシミュレータに入力してスピーカー配置とリスニングポイントを動かし、凸凹の少ないポイントを見つければ設計完了です。既存の部屋でもスピーカー配置、リスニングポイントを決める上で参考になります。

 理想的な特性に比べ、ほど遠いデータしか出ませんが、細いディップを無視して平均値の良いポイントを探せばOKです。SPを横長配置にした方が良い結果が得られるエリアが広いようです。

 壁の反射率と反射回数でシミュレーションの結果が大きく変化するのですが、本件では、壁の反射率:0.7、反射回数:2で実測値に近い傾向が得られました。低音域は反射音が広がるので計算外の反射音が回り込むことでディップが埋められ、実測値はシミュレーションより改善されます。

 位相干渉による伝送特性の乱れはSPとリスニングポジションの選択で改善の余地がありますが、定在波による乱れは回避の方法がありません。しかし本件の実測データから分かる通り、許容範囲に収まるようです。

 「低音域のブーミー=定在波」が定説になっていますが、「低音域のブーミー=壁振動によるミッドバスの輻射音が正しい答えですから、定在波は無視が妥当な対処方法です。

 但し上記の考え方は音楽観賞用のオーディオルームに適用されるもので、録音スタジオなど、プロ仕様の音響設計では古典的な吸音の理論が健在です。しかしそのスタジオで音楽製作をするプロデューサやミュージシャンは、感情表現が豊かで、楽曲のイマジネーションを誘発してくれる表現力豊かなスタジオ空間を嗜好しています。

 スタジオを造る側の建築デザイナーは古典理論を駆使して伝送特性フラットを追求しているのですが、音楽を創造する側のミュジシャンは、むしろオーディオルーム的特性を嗜好しているのです。-->スタジオの音響特性参照。

 シミュレーションのソフトウエアは下記からダウンロードし使用させて頂きました。有り難うございました。http://homepage2.nifty.com/hotei/room/download/001.htm


調音
心地よい響きに仕立て上げる

 部屋の響きはスピーカーの音と同調して音楽を奏でる伴奏者に見立てることができます。伴奏者がへたくそだとソリストも力量を発揮することが出来ません。どのような部屋を与えたらスピーカーが十二分な力量を発揮出来るのか? 

 カーネギーホールのスウィートスポットで間接音と直接音のエネルギーを計測したら、9:1であった。Bose901開発の起点となったデータ。--Doctor Bose--

 12畳間で残響時間0.25秒、スピーカーからの距離 3m という条件を設定してみると、間接音のエネルギーが85%くらい、直接音が15%くらい。(12畳で0.25秒はデッドな部屋)--加銅氏--

 など、間接音の支配力の大きさを示すデータです。

最適残響時間
  著名な音響学者の推奨値を20畳(80立方メートル)の部屋を例に一覧にしたものが<表4-1-1>です。
  斯様にばらついてしまった学説から日本人のデッド好みを考慮して加銅氏が提唱した値が0.55秒/20畳で、<図5-2-1>から部屋容積に応じた最適残響時間を読み取ることができます。

 本件では、このグラフから 0.62秒を500Hzの最適残響時間とし、完成後のルームチューンで若干の調整ができる構造を設計の目標としました。
 ●参考文献 : リスニングルームの設計と製作例 P70 / 加銅鉄平 著 / 誠文堂新光社

 本件の部屋容積 135立方メートルから、残響時間の目標値:0.62秒

 ●参考文献 : リスニングルームの設計と製作例 P81 / 加銅鉄平 著 / 誠文堂新光社

 話が前後しますが、過去の体験と今回の結果から、部屋の広さにかかわらず残響時間が0.4秒を超えるあたりから音楽らしさが顕著になり、加銅氏推奨の最適残響時間付近で躍動感がピークに達し、更に超えると残響過多のボケが始まります。

 LVパネルによる音場創成でも同様の現象が見られ、スピーカー背後のパネルの背丈120cmでサウンドステージの奥行きが深くなり、150cmでサウンドステージが上空に展開し、180cmで楽器の佇まいがピークに達します。しかし更に超えるとサウンドステージが霧散してしまうのです。

残響時間の周波数特性
 単に残響時間何秒と書くときは500Hzの値です。しかし残響時間にも周波数特性があり、ミッドバスを若干短か目にすることで音楽のジャンルを問わず加銅氏の最適残響時間が適用出来るようです。

  残響時間の周波数特性は諸説あり、加銅氏は500Hz以上フラット、500Hz以下・下降で、125Hzで比率0.8を推奨しています。 定在波の影響を避けるためです。

 しかし左記グラフのように低域上昇、高域はフラット〜上昇が世界の研究者の大勢です。

 但しこの表が想定している室容積は住宅事情が厳しい日本のオーディオルームのサイズよりかなり大きい部屋であろうと推測されます。
 ●参考文献 : リスニングルームの設計と製作例 P72 / 加銅鉄平 著 / 誠文堂新光社
 
残響時間の周波数特性/サーロジック推奨特性
 日本家屋のブーミングの帯域が125Hz〜250Hzであることを考慮すると、20畳程度以下のオーディオルームで200Hzの残響時間が上昇することは許容できません。

 オーディオ的な爽快感を伴う透明度の高い低音を確保したうえで、更に音楽と融合させるサーロジックチューンが目標とする周波数特性を左記に示します。

 200Hz前後の残響時間は直接音がしっかり出ていれば更に下降してもかまいません。

 このグラフにぴったり重なる必要はありません、必須の条件は200Hz前後の残響時間が2kHz前後より短いことのみです。

 木造のオーディオルームであれば40Hz以下が上昇し続けることはないので、上記推奨特性を追求すれば良いのですが、地下室やマンションのように躯体がRCであると40Hz以下の超低音が上昇し続けることがあります。RC躯体では40Hz以下の超低音の残響時間を下記グラフのように制限する必要があります。

 otoさんのオーディオルームの躯体強度は、RCほどではありませんが一般の木造家屋と比べればかなり頑丈です。結果25Hzまで残響時間の上昇が続きました。<グラフ14>参照

 試聴を繰り返して許容範囲との結論になりましたが、前述のザ・ハンターのように破綻する楽曲が出る可能性があります。


 RC躯体ではピークの周波数が更に低域にシフトし、レベルも更に高くなります。そこに内装建材の強度不足による60〜80Hzの吸音ディップが重なると、低音楽器の音像は基音の存在感がヌケ落ちた倍音で構成され、楽器の胴鳴りやホールの響きなどの超低音は、あたかも楽器とは不連続な独立した発音体のように振る舞って不快な圧迫音に変化します。耳が(脳が)疲れてしまって長時間の音楽鑑賞が苦痛になるう音場です。

 RCのオーディオルームやホームシアターの設計では、

●60〜80Hzの残響時間が短くならないように、柱を太くする。壁面が振動しないように壁材の強度を十分に確保する。
●40Hz以下の残響音の吸音体を設置するか、屋外に逃がす。

などのテクニックが必須で、リスニングルームの成否を左右する重要な注意点です。


残響特性 その1  2008年8月9〜11日

 2008年8月8日10時30分、新潟港からフェリー出港、小樽港に翌朝4時30分着。

 出発前の2週間、S社のスタジオに納品する74枚の特注パネルの製作に追われ、睡眠不足の極限に達していたので、フェリーの18時間は寝っぱなしで気力体力完全回復です。

 そのまま oto さん宅に直行6:00到着。2日しかない時間を無駄にはできないので、そのまま調音開始です。
 フラッターエコー

 精度の高い調音に際し大きな障害になるのがフラッターエコーです。本件のリア壁面の設計形状は、センターがフロント側に迫り出す下がり天井で、その下にLV1800が収納される厚みのある構造でした。

 下がり天井の三角形の空間は残響時間の調整エリアです。

 施工の都合で最終段階で平面壁に変更となりフラッター発生です。斜めに設置するLVパネルのサイズが3210mmであればフラッターに悩まされることはなかったのですが、納品済みで手遅れでした。

 床から1.8mはLV1800の斜め置きでフラッターレスになりますが、1.8〜3.21mのエリアにフラッターエコーが発生します。

 インパルス応答の測定データが示す残響時間の値がフラッターエコーによるものなのか、真の残響時間なのか、不明で、データーを頼りに調音の方針を決めることが出来ません。

100Hz残響曲線

 どうやって突破口を見つけよう? 困ったぞ・・・  oto さんのブログでも、そんな様子が伺えると思います。otoさんのブログ2008年8月11日参照

 2008年8月9日-1 otoさんのセッティングで測定

● フロントのセンターパネル 2セット(SV1200ct x 2)
● リアにLV1800/10枚(LV1800 x 10)

 リアパネルの上に竹の敷物(裏にスポンジ)を積み上げてフラッターを減らして計測した残響時間の周波数特性が<グラフ6>。

 再生音は楽器のフォーカスが定まりきれず、リスナーを音楽に引きずり込む説得力が足りません。

 測定データから、80〜150Hz の響き過多が原因と思われますが、フラッターエコーなのか? 残響音なのか? 不明。
 

<グラフ 6> 測定:2008年8月9日        
--■--:実測残響時間  --◆--:最適残響時間      測定生データ1



  2008年8月9日ー2 パネル配置の最適型を探す

 ”リスナーを音楽に引きずり込む説得力が足りない”  こんなときは部屋を含めたオーディオシステムのディテールの描写力を高めてから原因を探るのが常套手段です。

 演奏ステージ上の楽器の佇まいを明確にし、左右はもとより、前後・上下の立体表現を確立すると、楽器の実音に重なって模糊としていた残響音の動きが明らかになって、残響音の質感が聞き取れるようになります。サウンドステージを生み出す作業です。

 サウンドステージを再現する素材はソースに含まれる残響音などの間接音です。その間接音を楽器の実音から引き離して後退させると演奏家の立ち位置が明確になって、リスニングルームの広さなりにダウンサイジングされたサウンドステージが姿を現します。

 LVやSVパネルによる拡散反射音は明確な定位情報を持ちません。その性質がボーカルや楽器の実音を前面に残したままソースに含まれる残響音や反射音をパネル側に引き寄せる働きをして、フロントに楽器の実音、背後や周辺に間接音が配置される奥行きのあるサウンドステージを作り出すのです。

 サウンドステージを引き出すSVパネルの配置例は沢山の事例から体系化してHPでご紹介しているので、otoさんが設置したパネルも妥当な位置に置かれていました。でもサウンドステージが不明確なのです。

● センターパネル 3セット(SV1200ct x 2, LV1200ct x 1)
● リアのLV1800/10枚は変わらず(LV1800 x 10)

   otoさんのブログ2008年8月12日参照

 こんなときは記憶の引き出しを片っ端から開いて可能性のある反射パターンをとっかえひっかえ確認します。サウンドステージが明確になるパターンにぶち当たりました。

 本件ではセンターパネルを3カ所に配置した下記写真の形となりました。

 更に微調整の結果、センターパネルを前後にずらした形がベストで、80〜150Hzの残響過多も改善されました。 音が良いと耳が判定した時、測定データもそこそこ良いことが多いのですが、下記グラフのように最適残響ラインに寄り添う美しい形になっていました。

 誣いて不満を探せば、高音域のきらめきの不足でしょうか。低音大好きのotoさんですが、50Hzの響きもできれば抑えたいところです。

<グラフ 7> 測定:2008年8月9日        
--■--:実測残響時間  --◆--:最適残響時間     測定生データ2



  2008年8月9日-3 リアのパネルの量を増やして本日のベスト達成

 きらめきの帯域は5000〜8000Hzです。合板のなかで木肌が美しく硬さも備えたバーチ合板で内装を行い、きらめきの帯域の残響時間の確保を目論んだのですが、5000Hzで最適残響ラインを割り込む結果となりました。

 8000Hzで残響時間 0.56秒は決して短くない値ですが、全帯域の相対値で残響音の質を感じ取る聴覚の特性が、8000Hzの残響音が中音域より少ない --> きらめきが足りないと感じてしまうのです。

 オーディオルームの内装としてよく使われるシナ合板に比べればバーチ合板は十分に硬い材質です、しかし8000Hzの最適残響時間を達成するには役不足でした。 フローリング材のような銘木の堅木を壁や天井に使えば 8000Hzの残響時間が最適残響時間を超えてくれるのか? これも怪しいかもしれません。大幅なコスト増にもなります。

 高級感が出ないと思われているのか? オーディオルームの内装材に使われた例は見たことがありませんが、LVパネルやSVパネルの裏板に使っている針葉樹のラーチ合板が音楽を愉しく聴かせる性質を持っています。表面に浮き出る年輪のでこぼこが高音域を拡散反射しているためであろうと思います。

 リスニングルームではありませんがラーチ合板を内装に使った美しい部屋の参考例です。本文はこちら

 LVパネルやSVパネルは、部屋の中の特定の場所に置いたときにしかその効果が発揮されず、置き場所を誤れば返って解像度を落とすことがある。という事実で明らかなように、むやみに部屋中を拡散反射性にすることは出来ません。唯一リスナー背後の壁面だけは大量の拡散反射音があってもOKの場所です。

LV3210のシミュレーション

 フロント〜リアに発生するフラッター消去のため、リア壁面の LV1800 x 10 を 3210 x 10 に変更することにして、このパネルに高音域の拡散反射特性を組み込むことにしました。

 そこで本日の仕上げとしてデモ用のパネルを運び込み、 LV1800の上や手前の床などに並べ、パネルの総面積を LV3210 x 10 に近づけてフロントパネルの微調整を行いました。

● フロントのセンターパネル3セット(SV1200ct x 2, LV1200ct x 1
● リアにLV2400相当を10枚(LV1800 x 10 と LV600 x 10 を積み重ね
● リアの床にLV600を12枚程度(LV600 x 12

 聴感チューニングの結果、下記のパネル配置でOKとなりました。

撮影:2008年8月9日


 地震があったら大変・・・  と思いつつ LV1800の上に LV600を2段積み重ねるLV3000相当のテストも行い、これもOKです。音はダントツ本日のベストで、音が円やかにもかかわらず楽器の粒立ちが良く、ボーカルを聴くと、男声、女声ともに歌声に湿り気が感じられ、思わず聞き惚れてしまいます。

 高音域にひと味の輝きが加わったならば文句なしのOKである、と otoさんも私も確信を得ました。しかしこの日が頂点で、ひと味を求めて16ヵ月間の停滞期に突入することなど、慮外のことでありました。

撮影:2008年8月9日


 実測残響時間の形は概ねOKです。
最適残響時間ラインとのズレのうち、100Hz以下は全く問題なしの許容範囲。ミッドバス(160〜315Hz)も中音域の残響時間と同等または若干短めであれば良いのでOK。

 ひと味の輝き不足は4kHz以上の帯域の残響時間の下降によるものですが、測定結果を見なければ気がつかない範疇のクォリアの領域の輝き不足です。しかし知ってしまうと更に上を望むのが人情で、otoさんの苦闘の始まり々です。

 暫くのあいだ(2008年9月〜2009年11月)ルームチューンは otoさんにバトンタッチとなり、もうひと味の輝きを求めてパネルも部屋もウレタンで塗り固められて行きます。初期反射音の高音域が増え音としての輝きは増すものの、歌声の湿り気が減って音楽のクォリアの低下が目立ってきます。


<グラフ 8> 測定:2008年8月9日        
--■--:実測残響時間  --◆--:最適残響時間    測定生データ3



残響特性 その2  2008年10月6〜8日

 2008年10月06日 (LV3210パネルをリア壁面にビス止め設置して調音・測定)

 オーディオルームの初回調音から2ヵ月が経ちました。LV3210(1800+1410)を後ろ壁に斜めに固定して「オーディオハウス完成宣言」が今回の段取りです。

撮影:2008年10月8日


 otoさんによるニス塗りの効果を確認すべくLV3210取り付けに先立って残響時間の周波数特性を測定した結果が<グラフ9>です。<グラフ8>と比較してみると、残響時間の3k〜6kHzが若干増えているようにも見えますが、測定誤差の範囲内です。しかし音は確実にドライ方向に向かっており、高音域の初期反射音は確実に増えています。

 一方160Hz以下の低域特性が懸念材料として浮上しました。<グラフ8>に比べ<グラフ9>では、125Hz前後の残響時間(実態は振動時間)が長くなり、63Hz、80Hzの残響時間が極端に短くなりました(注)。この時点では原因不明。

63Hz : 1.26sec --> 0.681sec
80Hz : 1.21sec --> 0.692sec

 (注):D.Cube2HXの超低域再生能力をぎりぎりまで駆使して測定した<グラフ9>には31.5Hz以下ののデータが含まれています。<グラフ8>と単純比較すると低域特性が全く違うように見えてしまいます。40Hz以上を比較してください。

 この測定でHXのパワーアンプを壊してしまい、LV3210パネル取り付けと調音後のS/Nの良い低域データは得られておらず、グラフは割愛しますが、4ヵ月後に測定した<グラフ10>によく似た特性です。

 ルームチューン後の音楽の表現力は初回チューンの時と大差ありません、歌声が乾き気味になった点が気がかりですが許容範囲に入っておりグレードの高い音楽を奏でています。音のエネルギー分布が若干高音域寄りになったかな? くらいの印象です。


<グラフ 9> 測定:2008年10月6日    
--■--:実測残響時間  --◆--:最適残響時間    測定生データ081006



残響特性 その3  2009年2月13〜15日

 2009年02月15日 (スキーのついでにルームチューン)

 静岡、愛媛、道内から沢山のお客様が視聴に見えるので、その前日にルームチューンを行いました。思ったような音にはなりませんが、そこそこにまとめ上げた結果の残響特性が<グラフ10>です。ニス塗りの面積が広がっているので(otoさんのブログ2008年10・11月参照)高音域の反射音が強くなり、63Hz、80Hzの残響音不足が顕著になってきました。

 完成直後と現状を比べて大きく異なる部分は、

1.LV・SVパネルや壁面にウレタンニスを塗った。
2.リアパネルが自立から壁面固定になった。
3.リアパネルの表面構造を高域反射型に変更した。

の3点です。この中で低音の残響時間減少に関係しそうな項目は(2.)だけですが、パネル固定前の<グラフ9>で既にその兆候(63Hz、80Hz低下)が現れている点と整合がとれません。ニスの影響もあるのか? 今回も暫く様子見です。
 

<グラフ10> 測定:2009年2月15日    
--■--:実測残響時間  --◆--:最適残響時間    測定生データ090215



残響特性 その4  2009年10月27〜28日

 2009年10月28日 (部屋中ウレタン塗装、ソナスのエリプサが入りルームチューン)

 スピーカーシステムがソナス・ファーベルのエリプサに変更になり、低域が豊かになって63Hz、80Hzの残響音不足が解消したかのような鳴りっぷりです。エリプサに合わせてSVパネルを調整して音場を作り、気になる欠点を潰していくと、素晴らしい音になった、という頂点が必ず見つかります。

 この日も時間がかかったものの十分に満足できる音に仕上がりました。ところが一晩睡眠をとり、脳がリセットされると昨日の音が出ないのです。時間を掛け過ぎたチューンでよく起こる現象です。

 学問的な解明がなされているか不明ですし、言葉が妥当ではないかもしれませんが、人間の脳内にはイコライザが存在します。昨日と同じ音が出ない理由は一晩の睡眠で脳内に形成されたイコライザがリセットされてしまったことが原因です。この現象が起こるうちはシステムに周波数特性的な欠陥があると思ってまちがいありません。暫く音楽鑑賞を続けると新たなイコライザか形成されて昨日の音が蘇ります。

 昨年8月の初回チューンでは、この現象は皆無でしたから、部屋の状況は確実に悪くなっています。

 オーディオルームの内部を見渡して目に見える変化は、ウレタン塗装が部屋中に施されたこと、背面パネルの設置方法が変更されたこと、の2点です。何れかに原因があるのだろうと思っていましたが、先入観に惑わされていたようです。残響音の測定データに新しい事実が表れました。

 測定用の音源位置を変更すると、<グラフ11><グラフ12>のように200Hz以下の低域特性が大きく変化するのです。測定音源のスピーカー位置が変わって背面パネルの特性が変化する可能性は0%。D.Cubeの振動がダイレクトに伝わる場所、つまり床が怪しい!

 その後の経過は otoさんのブログ2009年11〜12月を参照してください。


<グラフ11> 測定:2009年10月28日    
--■--:実測残響時間  --◆--:最適残響時間    測定生データ091028-1


<グラフ12> 測定:2009年10月28日    
--■--:実測残響時間  --◆--:最適残響時間    測定生データ091028-2



残響特性 その5  2009年12月14〜17日

  測定:2009年12月15日 (いよいよ完成間近)

 信州まつもと <--> 札幌新千歳は2日に一回しか便がありません、いつも2泊3日の日程ですが、予想外のトラブルや新事実の発見があっても対応する時間がありません。今回は月曜日から金曜日までの長期日程で、耳休めのスキーを組み込んで最終調整です。

 床がしっかりして(otoさんのブログ2009年12月6日参照)、63Hz、80Hzの残響時間が正常な値に戻り<グラフ13>、低域の包容力が復活しました。一瞬の発音からどんどん変化してしまう楽器の実音を送り出す伝送特性の低域フラットより、残響音として部屋中に残り続ける長い響きの方が音楽再生に与える影響力が大きいのです。

 100Hz以下は耳の感度がどんどん落ちて行きます、暫く鳴り続ける低音がないと低音らしさを感じることが出来ないのかもしれません。シアターの低音には、ド・サ〜ンと響く尾鰭(おひれ)が加えられています、サーンがあると低音らしさが増大するのです。

 床が緩んで<グラフ11>に現れたミッドバス(100〜200Hz)が徐々に増えたため、ウレタンニスの塗りすぎが見過ごされてきましたが、設計強度の床に戻ってみると高音域の反射が多すぎてSVパネルによる反射音制御がうまく機能していません。サウンドステージの形が崩れていました。

 サウンドステージの形は、スピーカーのバッフル面がステージの最前列になる横長の長方形をイメージしてください。otoさんの調整はセンターが手前に張り出し、左右の袖が正面のコーナーに向かって後退する二等辺三角形になっていました。この形では音楽の緊迫感がリスナーに伝わってきません。

 包容力のあるサウンドステージが醸し出す深みのある佇まいを体験済みのotoさんにとって、殺伐とした気配で耐えられない音だったのでは?・・。

 三角形の原因はステージの左右をリスナー側に引き寄せるサイドパネル(下記写真の↓から二つ右側のSV900)の効果が半減していたためで、パネル周辺の平面壁からの単調で強すぎる反射音がその原因です。SV1300パネルを↓の位置に置いてサウンドステージが四角になりルームチューンは8割方完成です。

 一週間かけてチューンの予定が、たった5分で8割方完成で、ちょっと拍子抜けです。

 サウンドステージの形が整い、残響音が左右の壁伝いにリスナーを囲い込むように回り込んだことで、25Hzを頂点とする壁振動の低音と残響音が一体となってワイドレンジの残響音を形成し、音楽に違和感無く融合して音楽の包容力を増やす効果に変わりました。

*床振動、壁振動の詳細は第二部調音編で扱います、掲載まで暫くお待ちください

 基本的なサウンドステージが出来上がると細かいところが聞こえるようになり、ルームチューン続行です。

<要細部チューン1>: 天井の反射が強いので天井までの距離が短い前方に残響音の余韻が集中してしまい、楽音の余韻の尻尾がリスナーを包んでくれない。

<要細部チューン2>: 天井からの反射音が強く、サウンドステージが上空にせり上がっている。

 左右後方の壁面に小さな凸凹を付けて存在感の希薄なつるつる反射音に乱れを加えて存在感を与える。これだけで余韻の尻尾がリスナーを包むように変化します。

 上空に漂う余韻はスピーカー側低く目、リスナー側高目が鉄則。上にずらした3本(だったか? 写真に1本写っている)の細いリブで余韻がリスナー側上空に収束するようになった。もう一息です。



撮影:2009年12月15日


 壁面にルーターでスリットを彫り込めばリブが不要になって美しく仕上がるのだが変更や微調整が難しい。otoさんの改造意欲が納まるまで、この状態にしておくのが無難でしょう。


<グラフ13> 測定:2009年12月15日    
--■--:実測残響時間  --◆--:最適残響時間    測定生データ091215-1




otoさんのオーディオハウス完成

  2009年12月15日 (完成)

  フロントパネル〜前側サイドパネル
  ● LV1200ct x 1
  ● SV1200ct x 2
  ● SV1800sp x 2
  ● SV1500 x 2
  ● SV600 x 2
  ● SV1300 x 2
  ● 石パネル x 2
  ● SV900 x 2
  ● 石パネル x 2
  ● Gallery basso x 2

  後ろ側サイドパネル〜リアパネル
  ● SV600 8枚程度(左右壁面、テーブル横)
  ● LV3210 x 10相当


撮影:2009年12月17日




 ルームチューン続行の結果、フロント天井から落ちてくる中高域の反射音を減らす布が増えました。1kHz〜3kHzの残響時間を短くして相対的に5kHz〜8kHzを目立たせる目的も兼ねています。吸音スカラホールを使いたいところですが、1kHz以下も吸音してしまうので今回の目的に合いません。otoさんの奥様に助っ人を頼み、札幌駅近くの布地屋さんに買い出しです。

 布地は口から3センチくらいのところに布を広げ、チッ・チッ・チッ・チッ、チュッ・チュッ・チュッ・チュッなどの破裂音の反射を聞いて選別します。選んだ布は衣服の裏地に使う光が透けて見えるポリエステル製で、薄いけれど糸一本々は硬目で高音域の吸音が少ない布地です。<グラフ14>のように1k〜4kの残響時間の出っ張りだけが抑えられ、最適残響ラインの形に近付きました。これで完成です。出るはずの音がやっと出て安堵しています。

 ところで建築終了後のルームチューンは、かかっても2〜3ヵ月と思っていました。土台の柱の設置方向が設計と異なることに気付き、リカバリーしたつもりであったのですが・・ 確認不足でした。たった一つの見落としがルームチューンの完成を1年遅らせる結果となりました。

 オーディオハウスの構造には大工さんの常識と相反する仕組みが数多く含まれています。図面と電話の打ち合わせだけでオーディオルームを作るのは到底無理、と言うのが今回の貴重な教訓です。otoさんも仕事そっちのけで現場監督に徹したのですが、施工の行き違いが発生しました。トータルの労力を考えると建築現場に張り付くのが最善の策のようです。

ルームチューンの宿題

 <グラフ14>が完成時の残響特性です。最適残響時間と実測残響時間のズレが二カ所残りましたが、初期反射音を使った微調整で聴感上問題がない範囲に追い込みました。

 左右壁面に貼り付けた細い反射リブが高音域の反射音に存在感を与え、残響特性の8kHzの不足を補完して解決。

 25Hzを頂点とする超低音の残響過多は、柱強度より壁面の板強度が勝っており、壁全体が一枚の振動体になって振動していることを物語っています。柱強度を上げればピークが下がるのですが、次の理由により様子見で良いでしょう。

 今回のルームチューンは時間がたっぷりあったのでotoさんと一緒に沢山のCDを聴きました。25Hzの振動音は同じ壁面に貼り付けたリブの効果で高音域の反射音がミックスされて楽音と混じりやすいエネルギーバランスとなり、多くの楽曲で超低音の包容力の増加に聞こえるようになった。例外としてジェニファー・ウオーンズのザ・ハンターの1曲目で圧迫感のある低音を感じたが、たった一曲です。これ以上の躯体いじりは労多くして実りが少ないと断定できます。


<グラフ14> 測定:2009年12月15日    
--■--:実測残響時間  --◆--:最適残響時間    測定生データ091215-2


年が明けて2010年2月、1年越えの苦労が報われる嬉しい訪問記がotoさんのblogに載りました。
2010/02/17


〇〇〇邸訪問(2010.2/12)の感想



 聴き始めて直ぐに予想もしていなかった変わり様に驚きました。前回とは全く異なった印象で、これは何だろうという不思議な感覚とともに、過去2回の訪問、村田さんの事、自宅や他で聴いた音の記憶が頭の中でぐるぐる回りました。
 そして、何の根拠もありませんが、「これだ!」、「ああ、これで完成したんだ。」と直感しました。
 聴き進むに連れてもその印象が変わる事はなく、以前とは別物になった事を確信しましたが、そのように感じたのは自分でも非常に不思議でした。客観的に見れば全く別物という事ではないのでしょうが、少なくとも私自身の受けた印象は今でも変わっていません。
 今回で「全体の融合の妙とでも言うべき完成度」に達し、真に「血肉の通った音」になったと思います。

 しかし、これを他の方に分かっていただこうとして、ここが良かった、あそこがどうだったと個々の部分を説明しようとすればするほど、私の受けた印象からは遠ざかってしまうような気がしています。下手な例えですが、心臓や血管という要素を個別に取り出していくら詳細に説明しても、血流循環という働きや状態を説明したことにはならないのと同様です。
 どんな音だったと聞かれれば、「とにかく騙されたと思って聴きに行く事をお勧めします。幸せな気分になれますよ。」と申し上げるしかありません。

 後付の理屈として強いて説明するならば、音を構成する全ての要素が有機的に結び付き、相互に連携しながら絶妙なバランスを保っている、という事でしょうか。
  「全体としての纏まりと調和の完成」、あるいは「完全なバランスの獲得」とも言えます。
 私には、音の背後に再生、音楽表現の一つのフォルムを実現しようとする統一された意志が感じられ、村田さんの姿が見えるような気がします。
 ですが、実際に聴いているときはそんな事はどうでも良くて、ただ楽しいだけで、あくまでも後で考えて言葉にしてみればというだけの話ではあります。

 オーディオ的には歪みやデフォルメした部分を含む方が臨場感やリアルな感じなどの効果が出る場合が往々にしてあります。しかし、その音は特定の演奏やジャンルには良くても万能ではなく逆にデメリットとなる場合もあり、その辺りがジャズ向きとかクラシック向きとか言われる所以でもあるのでしょう。
 また、一聴して「いい音ですね」、「凄い音ですね」とか音の評価が真っ先に来るような場合は、やがてそれが鼻に付くというか気になってくる事も経験的には多いように思います。

 今回の音は、その意味からは際だった特徴が有るわけではなく、普通に聞けば、ただ演奏や楽曲だけに耳が行って音の事は忘れています。
 しかし、音自体に注意を向けると、必要な所に必要な音、響きが必要な量だけ十分な音質で過不足無く展開されています。良い音で聞かせようとか、らしく聞かせてやろうというような意図的なものは微塵も感じられません。
 スピーカーから出てきた音と部屋の響きがそのまま一体化して音楽、演奏そのものとして存在し、音自体の主張や作為を感じさせません。「何も足さない 何も引かない」というウィスキーのCMがありましたがそんな感じです。

 名人と呼ばれる方は、ひょっとしたら真似事くらいなら少しはできるんじゃないかと錯覚しそうになるほど、何の苦労もないかの如く楽々と演じます。厳しい修練の結果によって造作もない事のように見えるだけなのですが、観客にはその苦労はわかりませんし、分からせるようでは名人ではないでしょう。
 何の衒いもなく、ごく自然に、音楽と演奏が眼前に易々と展開されるこの音を、〇〇〇さんは「これは村田さんの音」と言われていましたが、まさに音の職人の名人芸だと思います。
 しかし、そうであったとしても、〇〇〇さんがベストを望まなければ実現しなかった音であることも間違いありません。私だったら早々に満足していたでしょうから、このようなレベルに達する事はなかったと思います。

 音の好みや音楽再生に対して望むものは人によって違い、良い音というものも一つではありませんから、この音が絶対で唯一無二と言うつもりはありませんが、到達点の一つの姿であるのは間違いのない事と思います。
 無論、これ以上良くなる余地が無いのか言えばまだ若干は残っているのでしょうし、私には想像できませんがもっと素晴らしいものもあるのかもしれませんが、人が音楽の楽しみを享受するのにこれ以上のものが必要とも思えません。

 今回はスピーカーの変更、床の補強、天井の布などの大きな変更がありました。前述のように「音楽再生と表現のあり方そのものがこの音の本質」と思いあえて触れませんでしたが、少しだけ補足させていただきます。

 スピーカーが高級になったから良くなったのだろうと思われる方もおられると思いますが、私は、それは大きな要素であってもこの音を決める決定的なものではないと感じています。
 音を作る全ての要素が一つの目標に向かって有機的に組織、運用されているかどうかが最も重要であり、それはオーケストラと指揮者の関係によく似ています。装置などが不十分であればどうしようもありませんのでその意味での重要性は確かにありますが、部分が全体を決めるわけではないのです。
 また、部屋については、ここはF1マシンのようなもので反応が異常に速く、少しでも触ると直ぐに影響が出てしまいます。これだけ高度に調整されていると迂闊には触れないという怖い側面も感じました。

 素晴らしい体験をさせていただきましたが、総じて振り返りますと、この音は、オーディオ的な事や先入観の一切を排して無心で向き合う時にこそ、その真の姿を聴くことができるのではないかと思っております。
 「忘筌」(ぼうせん)という言葉があります。筌とは魚を捕える竹器の事ですが、「魚を得る目的を達すれば道具の筌は忘れる」という、道具や手段にこだわる事を戒め、目的、本意を大切にせよという意味だそうです。
 この音を一言で表すならば、「忘筌の音」なのではないでしょうか。

 以上、主観ばかりの訳の分からない文章になってしまいました。大袈裟と思われるかもしれませんが、私の受けたインパクトが如何に大きかったという事だけでも推察いただければ幸甚です。

 〇〇〇さんには平日にもかかわらず長時間のお付き合いをいただき深謝いたします。