スピーカーの能力をとことん使い切るための”部屋直し”、”部屋作り”
その1
  
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その1 その2 その3

 日本家屋のオーディオルームで聴く音楽は何て馬鹿ばかしい音なのだろう、スピーカーのクォリティーを上げて音圧を上げたところで、上手くいって平面的な分解能と突き刺さるような方向感が得られるだけである。10万円程度の投資でソロ楽器やボーカルに奥行きを伴う佇まいを与えることは出来ないものだろうか?

 LV1200-3set(sp×2、ct×1)の初期モデルからスタートした”部屋直し”ですが、無償ルームチューンの貴重な体験で練り上げて StainVeil-3set(1800sp×2、1200ct×1)が定番になりました。

 無償ルームチューンに目新しい発見が無くなったな・・・と思っていた、そんな折も折、頃合いを見計らったように田中伊佐資さんからLV1200-3setの初期モデルで5/5のトップランクを頂きました。察するに、ルームチューンへのエントリーはローコストな初期モデルで果たせるのかもしれない。

熟考しよう!ルームチューン&セッティング/田中伊佐資

【田中伊佐資的採点】
左右方向への広がり ◎◎◎◎◎
前後方向への広がり ◎◎◎◎◎
センターの密度感   ◎◎◎◎◎

 「みなさんは。スピーカーが鳴っていると勘違いなさっている。本当は部屋が鳴っているのです」
 本当にそう。僕は痛感したのだ。極論すれば、部屋こそスピーカー・エンクロージュアの分身であり、母体なのである。リスニングルームのはるか上空から鳥瞰すれば、大きな箱の中に小さな箱が入っているだけなのだ。小箱を数ミリ動かして一喜一憂するよりも、もっと影響力の大きい大箱へ気にかけるべきなのである。

・・中略・・

 音場のワイドレンジ化を図るなら、ルームチューニングが最も効果的で近道の対策であるかと思う。

音楽の友社/stereo 2006'10 の紙面より抜粋

 ルームチューンの完成度を示す言葉として的確とは言えないが、ルームチューンにも「エントリーモデル」、「ミッドレンジモデル」「ハイエンドモデル」があっても良いのではないか?、今までハイエンドモデルばかり追い求め、且つお勧めしてきたな・・ と反省しているところです。

 ルームチューンの素晴らしさを沢山の音楽ファンに味わっていただきたく、エントリーからハイエンドまで、漏れなく網羅した部屋直しのページを作ることにしました。資金の敷居が低いエントリーから入門することで、ルームチューンにもアップグレードの楽しみが生まれます。大枚を叩いて小箱のすげ替え・ケーブルの交換・アンプの入れ替えと空費をする前に、小さな費用で大きな効果を生む大箱のチューンにトライしてください。徐々に書き足していきます。このページときどき覘いてください。


”部屋直し”、”部屋作り”の基礎知識
  


サウンドステージの素材は音源にある

●サウンドステージ
 フリースタンディングのスピーカー配置は、部屋の条件に恵まれると空間の奥行きや高さが再現される3次元的サウンドステージが体験できます。しかしそのオーディオルームに感銘を受け、別の部屋で同じ機器による同じシステムを組み上げてみても同じサウンドステージが出現する可能性は殆ど 0%です。 しかし何故サウンドステージが出現するのかについて理論的なメカニズムを知れば、大きさや形が異なる部屋であってもサウンドステージを構築することができます。

 一般にフリースタンディングで偶然に得られるサウンドステージだけで音楽を炸裂させることはかなり困難です、拡散壁により理詰めで作り上げるサウンドステージなら、古典的なオーディオ再生が追求し続けた汗が飛び散るような炸裂したサウンドも同時に達成可能です。

●無響室にサウンドステージが生じるだろうか?・・
 
 答えはNOです。無響室のステレオセットでは、全ての楽器が二つのコーンを結ぶ(シングルコーンの場合)一本の紐のような細いエリアに重なり合って並びます。2wayのシステムであれば、4本のユニット(TweeterとWoofer)で囲まれる奥行きのない額縁のような平面の中に楽器が配置されます

●反射体の大きさに逆比例する反射音の周波数
 大気の中を進行する音波の速度は 340m/sec。100Hzの音の1波長は 3.4m(340m/100)なので、この音を効率よく跳ね返す反射面の大きさは、正方形の反射面であれば一辺の長さが 3.4m以上必要です(少なくとも波長の半分の 1.7mは必須)。1kHzであれば 17cm、10kHzであれば17mmです。従って

・ 中空に小さな反射物がたくさんあると高音域の反射音だけが増加します
・ コンクリートのような全音反射の平面でも、平らで
大きな平面であると聴覚には低音過多の印象を与えます。

音波のこの性質を応用し、壁面各部に適切な大きさの拡散体を配置すると、周波数特性の制御が可能なサウンドステージを作ることができるのです。


●生演奏のサウンドステージは楽器が作るのか?・・ ホールが作るのか?・・。
 コンサートホールやライブハウスの大きな床は低音感の多い反射音を返し、音のピラミッドの底辺を形成します。一方天井や壁面には、浮雲や照明器具・柱などの突起物があり(霧島国際音楽ホール)、細かな反射物が中高音の多い反射音を客席に返します。 奥行きや広がりのある生演奏のサウンドステージは、演奏家が奏でる楽器の音だけで作られるものではなく、ホールやライブハウスの初期反射音が楽器の音に作用して醸し出されるものなのです。

●録音された音にサウンドステージが収録されているか?・・
 クラシックのオーケストラのホール録音では、メーンマイクロフォンは指揮者のすぐ後ろの上方にセットされます。ステージを見下ろしてオフマイクで収音しているので、サウンドステージの素材になる、床からの反射音、浮雲の反射音など、沢山の間接音が同時に集音されています。

 しかしステレオ録音では、上下の情報が左右の情報に統合されてしまうため、デッドな部屋で再生すると、最大限うまくいったとしてもサウンドステージは奥行き方向にのみ展開するだけです。
拡散反射音と平面反射音(後述)を適材適所に配置してフロント壁面に上下の音を抽出する機能を与えると、奥行きと高さと広がりのあるサウンドステージを蘇らせることができます。

無響の空間には奥行きを
伴う臨場感は存在しない


日東紡音響エンジニアリング(株)の無響室

 無響室は反射音が殆ど存在しない部屋。この空間にシングルコーンのステレオセットを置いたとき、二つの点音源から高さや奥行きのあるステージが再現されるだろうか?・・・ むろん高さのあるステージなど現れる筈がない(頭部伝達関数参照)。答えは「高さは再現されない、非常に聞こえずらいが奥行きは再現される」である。ソフトに含まれる空間情報がある程度の奥行きを作るが、臨場感には程遠い。高さの情報が全く無いからガラス板を真横から見るような、厚みのない奥行きができるだけである。

 居間などの臨場感と比較すれば、上にも下にも前後にも拡がらず、左右のコーンを結ぶ直線的なキャンバスに点として楽器が存在するように聞こえる。ソフトの制作者がイメージした立体的なフォルムは無響の空間ではその姿を現さない。

 楽器のフォルムに深みを与えるために盛り込まれた空間情報であっても、再生系の音空間に高さを表現する能力がなければ、実音と同じ直線上に空間情報も並ぶことになる。実音より弱いレベルの空間情報はエネルギー差によるマスキングで殆ど聞こえてこない。この状態のことをクリアな音と勘違いする可能性が無きにしも非ずであるが、佇まいが表現されることは絶対にあり得ない。そして空間情報が少しでも多過ぎれば、楽器に纏わりつく邪魔者となり、空間情報が音の鮮度を下げる結果となる。

 

左右の耳だけで上空の余韻が聴こえる

●頭の形により回折音が変化することを手がかりに聴覚神経が情報を処理し、脳が総合判断を下すことで上下・前後の音の方向が検出される
 音源が右前方30度の方向にあれば、左の耳に到達する音は右の耳より0.00025秒遅れます(耳の間隔を17cmとした)。さらに左耳に入る音は顔の陰になるため直接音が届かず、顔の凸凹に沿って回折した音が届くので回折しにくい高音が弱い音になる。この二つの要素が方向知覚の基本的な手がかりであるとしたものが古典的な方向知覚の理論でした。

 近年になって、回折音の効果により上下方向の音源も知覚できることが解明された結果、二つのスピーカーによる上下も含む立体音場の再生がホームシアターに応用されるようになりました。しかし頭部伝達関数には個人差があり、平均値を用いる方式では不快な圧迫感(逆位相感)を生じてしまい、ピュアオーディオのサウンドステージをバーチャルに作り出すことは不可能です。ピュアオーディオでは、リスナー自信の頭部伝達関数を利用してサウンドステージを構築する必要があります。



頭部伝達関数

仰角(正面0〜80°)による頭部伝達関数の変化


音のなんでも小事典/日本音響学会編/講談社 より

CDやSACDの楽曲の空間情報にこの頭部伝達関数が組み込まれているのか・・? 答えはNoである。バイノーラル録音、VR(バーチャルリアリティー)系のソフト以外では偶然に生成されたものを除いて含まれていない。 




顔の形が頭部伝達関数になる

 音の波が耳に入るとき、頭部の凸凹による反射・回込み、耳介内での反射音などが干渉を起し、鼓膜に伝わる波の強度にはディップやピークが生じる。周波数特性・位相特性がフラットな音圧を特定の方向から与えたとき、鼓膜に到達する音の特性(左のグラフ)がその方向の頭部伝達関数である。

水平方向
 音源が水平斜め方向にあれば左右の鼓膜に届く音の質や時間が微妙にずれる。人はこの現象を利用して音源の方向を知る手掛かりを得ている。無響室(カーテンだらけの部屋)のステレオ再生であっても、左右の時間ズレ(位相差)から、水平方向の定位と奥行きを感じることができる。

垂直方向
 左のグラフは、周波数・位相ともにフラットな音を、顔の正面から上方向に移動したときに鼓膜に到達する音の特性を示す。顔の凸凹などを反映した頭部伝達関数である。グラフの一番奥のデータは上方80度の頭部伝達関数で、0度のものとは明らかに形が違う。
 
ステレオ配置のスピーカーから直接音だけしか耳に届かない環境(無響室や吸音グッズだらけのオーディオルームでは0度以外の方向には音が無い)では、0度の頭部伝達関数のみで音楽を聞くことになり、上下方向に拡がる立体感は発生しない。

音源の移動
 スピーカーを0度から80度の方向に徐々に移動し頭部伝達関数の影響を受けた音(頭部伝達関数が畳み込まれた音)が連続的に鼓膜に到達すれば、音源の移動がはっきり分かる。

高さの表現
 無響室では上方や下方からの反射音が皆無、従って垂直方向の頭部伝達関数が有効に働かない。音像の定位はテーブルの板を真横から見るような奥行き方向の2次元平面となる。デッドなオーディオルームが臨場感の再現を不得意とする理由である。

オーディオルームの完成度は初期反射音が決定する

 数多くのオーディオルームをチューニングした経験から、オーディオルームに録音現場の距離感(サウンドステージ)を再現させる要素は、オーディオルームの初期反射音であることが明白になりました。初期反射音の質(2種類ある)を選び適切な方向に配置すると、音源に含まれる録音現場の間接音(初期反射音と残響音)が楽器の実音の定位から遊離して拡散反射面に引き寄せられ、録音ステージの佇まいが再現されるのです。スタジオ録音ではエンジニアが付加したデジタルリバーブなどの間接音がエンジニアの意図を表現します。

 もう一つの発見は、サウンドステージの生成にはオーディオルームの残響音(残響時間)は殆んど関与していない、という事実です。言い換えれば残響時間の適・不適で論じてきた従来のオーディオルームの設計プロセスは無意味であった訳です。

 最適残響時間の概念は、サウンドステージが確立できていることを前提に成立します。未確立のオーディオルームで最適残響時間を満たしてしまうと風呂場の音になってしまいます。オーディオ雑誌やオーディオ店が推奨する「オーディオルームには吸音グッズが必要」という考え方も、サウンドステージが確立されていないオーディオルームの対処法としてであれば、あながち間違いとは言えません。でも音楽が楽しく鳴ってくれる筈はなく、上位機種に乗り換えても常に不満足が発生します。機器のとっかえひっかえ・ケーブル交換の無限地獄が待ち受けています。

 サウンドステージが確立できた部屋では、残響時間を最適値に近づけるほどに音楽が益々楽しく鳴ってくれるようになり、音楽浸けの生活が可能になります。30分で聴き疲れするデッドなオーディオルームの対極です。


●振る舞いが違う二つの反射音の使いこなしがルームチューンのキーポイント

平面反射音
 音の入射角と反射角が一致する平らな壁面が作り出す反射音を平面反射音と定義する。ピンポイントの一点の反射音しか耳に届かないので、聴覚が感じるエネルギーはとても小さい。

拡散反射音
 音の入射角と反射角がランダムになる壁面が作り出す反射音を拡散反射音と定義する。壁全体からの反射音が耳に届くので、聴覚が感じるエネルギーはとても大きい。

例えば左壁面では(左の図)
 直接音に加え、左壁面から反射音が届くとき、その音が平面反射音であれば楽器定位のシフト量はごく僅かで無視できる範囲に収まる(壁とスピーカーの距離が 1m 程度以上離れている場合)。しかしその音が拡散反射音であると楽器のフォーカスがボヤけ、楽曲全体の分解能が低下する。ではフラッターの防止も兼ねてカーテンなどで吸音性の壁面にするとどうなるのか?・・  下記の悪循環が始まります。

1.頭部伝達関数の有効利用ができなくなってサウンドステージが消滅方向に向かい、音楽が確実につまらなくなる。
2.サウンドステージが無いので、部屋の残響音(フラッターエコが大半)が邪魔になる。
3.さらに吸音グッズを買い込む。

 結論として、
3度以上の角度を付けた(フラッターエコーが生じない)平らな壁面がベストとの結論になる。では3度の壁面でスピーカーと壁との距離が 1mより近いときはどうしたら良いのか?・・、スピーカー背後の壁面から拡散反射音を返し、直接音の立体感を増すと解像度の悪化は100%阻止できる。