リスニングポイントの伝送特性と音場表現力

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 SVパネル導入のご相談にあたり、お客様から届いたリスニングポイントの伝送特性です。本文も参照して下さい 

 
 リスニングポイントの伝送特性は位相干渉と定在波の影響で必ず凸凹になります。しかしスピーカーから一直線で耳に届く楽器の音は、スピーカーメーカーのデータシートが示すフラットに近い楽器の音です。

 例えばグライコなどでリスニングポイントの伝送特性をフラットに補正すると、本物の楽器に代わって楽器を演奏するスピーカーが出す楽器の音が本物の楽器の音とは似ても似つかない変な音になるわけで、破れた楽器で奏でる音楽なんて愉しい訳がない。

 測定データを見ると50〜80Hzの音圧が6dBほど高い(LとRで異なるが)。60〜80Hzの音域はベースやバスドラムにとって最もコアな帯域で、その帯域がヌケたバスドラムの音は、ダンボール箱を蹴飛ばしたのか? と一瞬耳を疑うようなスピード感もエネルギー感もない、だらしないサウンドを放ちます。

 グライコを使いリスニングポイントの伝送特性をフラットに補正したときに楽器に代わって音を出すスピーカーが放つバスドラムの音です。

 では上記伝送特性の乱れに対し、どのように対処すれば再生音楽にとって最良の結果が得られるのでしょう?

 凸や凹は、スピーカーから直接マイクロフォンに届く音と、床・壁・天井にぶつかって届く音との時間のズレが位相干渉を起こして作り出すもので、定在波も凸や凹の原因になりますが、その影響は小さいようです。(掲示板のNo.580 定在波対策も参照して下さい)

 対処の方法は二つあり、誰でも思いつく方法が

耳に届く音を直接音だけにしてしまえば良い!

 コンピュータ・シミュレーションで確認すると (詳細はスタジオの音響特性参照


 6面全ての壁の反射率を0.8としたときの20Hz〜500Hzの伝送特性(上記左のグラフの拡大)


 6面全ての壁の反射率を 0 (完全吸音)としたときの20Hz〜500Hzの伝送特性。
 シミュレーション結果は完全フラットになり、伝送特性がSPの周波数特性と一致する。

  シミュレーションのソフトウエアは下記からダウンロードし使用させて頂きました。有り難うございました。http://homepage2.nifty.com/hotei/room/download/001.htm

無響室にすると物理伝送特性がフラットになる

 この結果から派生したオーディオルームやホームシアターの設計理論がデッドルームで、位相干渉も定在波も発生することが無く理想的な伝送特性を示します。しかし音楽そっちのけの部屋です。


 二つ目の答えは、

初期反射音を増やして位相干渉の密度を上げる

 録音現場のようなイコライザを多用する音作りを経験しないと体験できないことですが、イコライザで楽器の音に幅の狭い凸や凹を与えてもその音質はあまり変化しません。

 デッドとは真逆の手法ですが、反射音を増やして位相干渉の密度を上げ、沢山の周波数ポイントに凸や凹を作り、その幅が1/3oct以下になるように分散させると聴覚が感じる伝送特性はフラットに近づきます。

ライブにすると聴感伝送特性がフラットに近づく

 反射パネルによるルームチューンを実施すると、幅の狭い凸や凹が沢山発生して位相干渉の密度が上がります。

伝送特性の細かな凸や凹が均一に分散されたとき、音場表現力も格段にアップする

 基本位置にSVパネルを置き、位置の微調や角度の微調を繰り返して聴覚が心地良いと感じる音場に近付けていくと、同時進行で(勝手に)伝送特性の細かな凸凹が均一に分散されるように配置されて行き、録音現場の壁までの距離や天井の高さ、楽器の配置などが透けて見えるような透明感が得られたとき、伝送特性も(勝手に)そこそこよい形に整います。

 まだ僕の経験が浅かった1980年代、東芝EMIの第三スタジオの設計を担当したとき(2010年10月19日の番外編参照)、日東紡音響エンジニアリングの技術陣と協力して伝送特性を指標にして部屋の不具合を直そうと努力したのですが、原因発見の糸口程度の役には立つものの、最終判断の役には立たず、調整の良否は全て耳で判断しました。

 測定結果を穴が開くほど眺めて見ても、大きな凸と凹が偶然同じ位置で重なり合い打ち消しあって作られた良い特性なのか(頭が動いたり、リスニングポイントが変わると別の凸や凹が発生する)、位相干渉の細かな凸や凹が緻密に絡み合い、リスナーの位置が変化しても音場が殆ど変化しない、部屋中がスウィートスポットの音場なのかの判別が出来ません。

 このHPのサムネールに耳のみで仕上げた部屋の写真を沢山掲載しています。各ページの解説なども参考にして頂き、ルームチューンの精度を上げて下さい。部屋中がスウィートスポットになったときが(何処で聴いても音楽が弾む)ルームチューンが完成したときです。

 サムネール掲載以前のルームチューンも含めると、個人宅のルームチューンの実績はそろそろ10年になります。チューンの経験数の増加に伴い、少ない数の水平拡散パネルで音場がコントロール出来るようになって、サムネールの後半はパネルの数が確実に減っています。

 ルームチューンの参考例はできるだけ後半からセレクトして下さい。各ページの解説もルームチューンを実施した時点の知識を集約したもので、前半と後半で矛盾する記載があるかもしれません。矛盾する場合は後半が検証の済んだ解説です。