Thiel ではごまかしが通じない
 この4月にスピーカーをBOSE 901SSW から Thiel の CS2.4に買い換えましたが、音が奥に引っ込んでしまいました。スピーカーの特性だといわれればそうかもしれませんが、もう少し何とかならないかと考え、部屋の長辺にスピーカーを配置してみたりしたのですが、思うような音はでませんでした。

 そんななか、子供用のベッドのマットを2つ折に(三角に)してスピーカーの間においたら、低音は出なくなったものの、音が少し前に出てくるようになったため、それならLVパネルが使えるかもと思い、今回お願いした次第です。
 もし来ていただけるのであれば、とりあえず真ん中にLVパネルを置いてみてどう音が変化していくか確認しながら、今後LVパネルを増やすことも検討しておりましたので、その辺のアドバイスもお願いできれば幸いです。
 部屋は、12畳の専用ルームで、短辺は3.35m、長辺は5m、高さは2.5m(いずれも内寸)あります。現在は、部屋の短辺にスピーカーを置いております。

 スピーカーの後ろの壁は、後ろに音がでるBOSE用に、コンクリートブロックで作りました。

 そのほかの内壁はブラスターボードですが、松下電工の防音室用の内壁で、ボードの厚みはかなりあり、拳でたたいても普通のボードほどは響きません。床はフローリングで、天井は松下電工の吸音パネルが張ってあります。家自体は一軒家で、(へーベルハウスですので)外壁はヘーベル板で、部屋の三方が外壁になります。
 リスニングポジションからスピーカに向かって左側に大きな窓があり、そこにはカーテンがかかっております。そのせいか、外壁の有無のせいかわかりませんが、左右対称にスピーカーを置くと、左右の響きが異なり、音のセンターが少し左に寄ります。これまでBOSEでは左右非対称にしてごまかしておりましたが、Thiel ではそのごまかしも通じないようで、それも悩みのひとつになってます。

ワイドレンジでフラットなスピーカーは、部屋によって音色が変わる
 CDの音源制作の最終工程でEQを使用したマスターリングが行われる、このとき低音域、中音域、高音域の3箇所に同じくらいの高さの周波数特性の山を作りつつ、音楽的なバランスを崩さない音作りをすると、再生装置や部屋の影響を受けにくい音質のCDになる。音源自身に3箇所の山があるために、その山より低い、スピーカーや部屋のピークが目立たなくなるのである。
  同様に、美味しい帯域に周波数特性のピークがあったり、独特の艶(実態は歪)があるスピーカーでは、ルームアコースティックの影響を受けにくい傾向がある。どちらかと言えばBOSE901は部屋の影響を受けにくい部類でしょう。一方周波数レンジが広く、特性もフラットなCS2.4はルームアコースティックの影響を受け易いスピーカーです。

部屋によるカラーレーションを5種類に分類
1:定在波 2:フラッターエコー 3:初期反射音(鏡像) 4:残響音(吸音材) 5:壁・床・天井板の振音

 オーディオルームのような比較的狭い空間では、ミッドバスから下の帯域に、その部屋固有のカラーレーションが現われる。ルームチューニングはその原因を探し出すことから始まる。

 木内装のオーディオルームの音質不良の原因で改善が最も難しいものが、5:の板振動です。合板やプラスター(石膏)ボードで内装した20畳程度以下のオーディオルームの残響時間が、多少の家具が入った状態で0.4秒を越えることはありません。吸音のことなど考えずに(板壁の僅かな振動が、勝手に低音を吸音する)振動の無いしっかりした壁面の部屋を確保し、フロント側壁面を高音域の反射性に仕上げれば立派なオーディオルームになります。

1 : 定在波
 図1のグラフの 50Hzのディップは定在波によるものと推測される。なぜなら測定ポイントを後ろにずらした図2では、50Hzの谷が浅くなっているから。定在波は石井伸一郎氏の解説が一番分かりやすい、テクにクスのHP参照。
 
 ● 定在波の影響を軽減する方法 : 図2の測定結果が示すように定在波によるカラーレーションはリスニングポジションの変更で改善できる。リスニング・ポジションの変更が無理であれば、LVパネルのような質量の大きいパネルで壁の角度を変更し、ディップが出来るエリアを移動
(*1)すれば良い。平行面が減ることで定在波のエネルギーが減り、ディップも小さくなる。
 *1: センターパネルをダブルで置く方法によれば、センター側の2枚のパネルの角度によって伝送特性のディップのエリアが前後に移動する。
図1 リスニングポジションのF特
図2 リスニングポジションの後ろで測ったF特

2 : フラッターエコー
 部屋の大小を問わず対向した平行面があると発生する。前後左右ならカーテン、上下ならカーペットで吸音すれば大方消えるが、同時に音楽の躍動感も消えてしまう。壁を傾ける以外の方法で対処すると必ず弊害が出る。

 新築であれば片側3度以上の傾きで壁面を設計すれば良い(天井は6度以上)。強度の確保と振動のダンプに手抜かりが出ないように、施工業者に十分に意向を伝える必要がある。

 ● 既設の部屋のフラッターエコーを消す方法 : スピーカー後方にLVパネルを置き、左右にGallery-flatパネルを置くと平行面が解消されてサウンドの濁りが消える。上下方向はフラッターの強い場所に吸音スカラホールかカーペットを置く。透明度が向上すると無音と思っていた音の合い間にも霞かな響きが漂い、聴覚が聞き耳を立てるので音の間合いが長く感じられる。オーケストラのテンポが落ちたように演奏が揺ったりと聴こえてくればフラッターが消えた証拠である。

3 : 初期反射音(鏡像)
 ホーンシステムのように指向特性が鋭いスピーカーを部屋のコーナーに置くと、スピーカー周辺の壁面からの低音の初期反射音により最大で12dB低音域が上昇する可能性がある(詳細は別項)。一方360度指向性のスピーカーでは全体域が万遍なく上昇するので低域上昇は起こらない。現代スピーカーの指向特性は両者の中間程度であるから、スピーカー周辺が平らで硬い壁面と仮定すると、相対的な低音域の上昇は6dB程度となる。

 ブーミング解消などの目的でスピーカー周辺に配置する吸音系のグッズは、少なくとも次の条件を満たしていなければならない。条件を満たさないグッズを置いても状況は改善されないし、高音域が吸音されれば音楽が死んでしまう。
 1.100Hzまで十分な吸音力があること(吸音力不足で100Hz以下が徐々に上昇しても音楽鑑賞の害にはならない)。
 2.高音域の吸音力が、ミッドバス帯域の吸音力より小さいこと(小さいほど伝送特性がフラットに近づく)。


 吸音パネル、グラスウールパネル、カーテンなど、高音域の吸音力が低音域より勝るものをスピーカー周辺に広く置くと、高音域が吸音され低音域の上昇傾向がより強くなる(理論値の+12dBに近づく)。ミッドバスの吸音を目的に置くのであれば、表面積が最小になるようコーナーに寄せ集め、表面を幅の狭い木材など中高音の反射体で覆うと良い。

 ● 初期反射音による低域上昇を防ぐ方法 : スピーカーの指向特性が中高音域で悪化し、初期反射音の中高音が減少することが初期反射音がミックスされたときに伝送特性の低域が上昇する原因である。従ってLVパネルの表面のように中高音域を均一に拡散反射する壁面を設け、中高音域も6dB上昇させれば初期反射音による低域上昇は発生しない。LVパネルは裏側のパネルがミッドバスの吸音も兼ねている。

4 : 残響音(吸音材)
 詳細を別項に作成中です。別項を引用するので暫くお待ちください。

5 : 床・壁・天井板の振動音
 スピーカーのベースは大地からコンクリートで打ち上げたものがベストである、とか、床の上に重量級のスピーカーベースを置くとスピーカーの音が良くなる、と全てのオーディオファイルが認識している。床が振動してしまうと、その床が超大口径のウーファーとなってブーミーな音が再生音につきまとうからである。「床振動によりブーミーな低音が増加するから床は振動させてはいけない」

 一方建築音響の分類では板材はミッドバスの吸音体としてコンサートホールやレコーディングスタジオの低音処理に多用されている。空気の揺れで板材が振動し、振動周波数の音エネルギー・つまりミッドバスが熱に変換されて残響時間が短くなる。大きな体積を必要とせずに音響処理で最も厄介な存在であるミッドバスが、経験を積み重ねることで計算通リに処理できる唯一の存在だからである。「ミッドバスのブーミーな音が減少するので板振動は低音処理に欠かせない存在」

板壁の吸音率 (建築の音響設計/オーム社 永田穂著 より)
 
 矛盾していると思いませんか?・・・
「床振動によりブーミーな低音が増加するから床は振動させてはいけない」、これは紛れもない正解です。
「ミッドバスのブーミーな音が減少するので板振動は低音処理に欠かせない存在」
つまり振動させろと言っているのです。ルームチューニングキャンペーンのご訪問先が100件を超え多くのケースを体験いたしましたが、チューニングを実施する上で最も厄介で、且つコストがかさむ要因が、木造の場合であれば壁振動によるミッドバスのダブつき、RCの場合であれば定在波による低音域の上昇です。どちらも部屋の内装を作り変えるくらいの意気込みと費用を覚悟しないと根本的な改造はできません。LVやStainVeilパネル、Galery-flatパネルを使い、そこそこの伝送特性を得るにしても、かなりの枚数が必要になります。日曜大工で改装できる自信があれば、改装してフロントだけに少量のLVパネルを使った方が、コスト的なパフォーマンスは向上します。

 板振動による方法を使えば低音域をドラスチックに改造することができます、しかしその効果は想像以上に大きく、スタジオ内装などの経験をかなり積んでも最終調整はカット&トライになります。オーディオルームのように狭くてシビアな空間の固定壁に板振動を使うと、ほぼ100%失敗します(孔空きボードなど:板が振動する)。板振動は見えない位置(振動による輻射音が聞こえない位置)に設置するのが鉄則です。つまりオーディオルームの壁は振動させてはいけないのです。
 
 改装は木造であれば
1.上下の幅木を外す。 2.壁のボードを剥がす。 3.間柱、胴縁を増設する。 4.木工ボンドとタッカー(釘、木ねじ)でプラスターボードを貼る。 5.コンパネを目違いで重ね貼りする。 6.上下の幅木を付ける。 ●フラッターエコーの対策も兼ねるのであれば、 6.傾斜3度以上で長さ約450mmの楔を壁面横方向にボンドとタッカー(釘)で打ち付け、楔の隙間にグラスウールかフェルトを充填してコンパネを貼る。
 改装はRCであれば
RCの内側に新たな木造の部屋を造るか、パネルで定在波の発生を抑えるかの二つに一つです。日曜大工であればパネルを取り付ける枠を作る以上のことは出来ないでしょう。

概ね右図のような構成になります。

1.正面: StainVeil(SP周辺)とLVで拡散音の反射率を上げる。
2.後ろ: センターを中心に、LVパネルをフラッターが止まる枚数並べる。
3.左右: Gallery-flatをフラッターが止まる枚数並べる。
 例えばダンボール箱を手のひらで軽く叩くと、ボンボンと所謂ボンツキの音が出る。ダンボールの部屋で低域のレンジが広いスピーカーの音を聞いたらどんな音がするのか想像がつくと思うのだが、類似の音を輻射する可能性が高い「骨組みの強度が低いプラスターボード」「古典的な低音の吸音体である穴あきボード」「6mmの壁用化粧合板」「3mmの天井用プリント合板」、などなど、オーディオルームの内装に絶対に使ってはいけない建材が依然として使われている。天井用の「吸音テックス」の類も会議室の会話の透明度を上げる目的には有効だが、音楽の躍動感を削ぐ建材なので使うべきではない。上下のフラッターは床のカーペットで止めればよい。カーペットなら剥がす事ができるが、貼ってしまった吸音テックスは剥がす事ができない。
  
スピーカーの真後ろがコンクリートブロックなので、
センターパネルの設置でボーカルの佇まいに実態感が加わり、ベースの音がタイトになれば
パネル-1セット”の構成もありではないか、と期待してみたのだが、
そう甘くはなかった。

 「Thiel の CS2.4に買い換えましたが、音が奥に引っ込んでしまいました」
とオーナーがお悩みのように、LVパネルの効果が良く分かるオーディオルームでした。
 1.の定在波の影響は
 図2の位置にリスナーが移動すれば、測定データ上では解決だが、F特を見て期待するほどの改善効果はない。どちらも125Hzが上昇しているからであろう。(図1、図2の測定結果はLVパネルありのデータ、LVパネルには125Hzの吸音効果があるので、部屋自身の特性はミッドバスが更に上昇しているはず)

 2.のフラッターエコーは
 十分押さえられているので無視して。

 3.の初期反射音が怪しい
 部屋のコーナーにスピーカーがあり、硬い壁に囲まれているので下図のように低域に向かって伝送特性が上昇する可能性が高い(詳細は別項参照)。スピーカー周りをしっかり作ることは再生音のクォリティーを上げるうえで必須条件だが、同時に高音域の反射音を増やす工夫も忘れてはいけない。高音域の反射音が増えると音楽の躍動感が向上し、同時にサウンドステージの再現にもなる。

 ミッドバスの帯域は多くの楽器の音が重なり合うエリアで、特に150Hzを中心とする音域は、僅かな膨らみ(凸)で楽器の躍動感が減少し、少しへこむ(凹)だけで音楽が薄っぺらになる。オーディオルームの出来を左右する重要な帯域。
 初期反射音

 正面を向いているスピーカーが2本、背中向き4本、横向き2本の合成音だから、無指向性と考えられる低音域は最大で12db上昇。ただし距離の差による位相干渉があるので、6dB程度の上昇と考えるのが妥当。中音域は半分の2〜4dB上昇、高音域は1〜2dBの上昇。 
 スピーカーメーカーのスペックシートの無響室特性に比べれば、低音域過多の音質になる。
 スピーカーの直前の伝送特性は部屋の影響が少ないはず、このポイントでは 125Hzは下降気味。リスニングポジションの後ろ(定在波の影響が少ない)の伝送特性は125Hzが上昇気味。定在波による50Hzのディップを無視すると、リスニングポジションでは 250Hz以下の低音域が上昇していることが伺える。この測定データはスピーカーの周りのLVパネルありのものであるから、パネルによる高音域の反射音が無いオリジナルの状態では、更に強い低音域の上昇傾向が現れているはずである。
SPの直前で測ったF特

リスニングポジションの後ろのF特
 パネル無しの状態ではこの測定データ以上にミッドバスが上昇しているはずで、再生音の躍動感が減る原因になります。
 また定在波による低音域のディップは、音楽の安定感を損ないます。これらが絡み合って音が奥に引っ込む原因となっているのでしょう。


● 伝送特性のデータはCT(センター)パネル、SP(スピーカー)パネル、600mmのサイドパネルありで測定したものです。パネル無しではリスニングエリアのミッドバス以下の低音域の上昇傾向が更に強くなるものと思われます。

● プリアンプのVR位置は一定ではありません。
リスニングポジションのF特

 4.の残響音は
 残響時間は写真のようにパネルが入った状態でも 0.3秒程度であった、天井の吸音パネルは上下のフラッター止めとしての効果大のようだ。
周波数 16 20 25 31.5 40 50 63 80 100 125 160 200 250
残響時間 ? ? ? ? ? ? ? 0.34 0.36 0.35 0.24 0.26 0.25
周波数 315 400 500 630 800 1k 1.25k 1.6k 2k 2.5k 3.15k 4k 5k
残響時間 0.26 0.25 0.24 0.23 0.19 0.19 0.20 0.19 0.20 0.24 0.24 0.25 0.26
周波数 6.3k 8k 10k 12.5k 16k 20k              
残響時間 0.29 0.26 0.26 0.26 0.25 0.26              

500Hz残響時間     
0.29sec

 5.の床・壁・天井板の振動音は
 専用のオーディオルームとして設計された部屋だけあって、よく制動されており、オーディオルームの致命的なトラブルとなる振動音が出ていないところが素晴らしい。

● その他記憶に残っていることをメモしておきます。
1.左右の壁面の材質が違う(左:ガラス)。左右カらの反射音のエネルギーバランスの崩れはセンター定位がずれると同時にサウンドステージの奥行きも浅くする、左右手前側面の床に置いた600mmのパネルを前後する(左右が非対称になる)ことでエネルギーバランスの調整ができる。
2.スピーカーが壁(正面と左右)に近い場合、360度指向性以外のシステムでは、3.の初期反射音の高音域が減少することによる伝送特性の低域上昇が発生する。スピーカー周辺の壁面を高音域の反射体で構成し反射音のエネルギーバランスをフラットに近づけると解消する。



 残響音詳細

残響時間

16Hz

残響時間

20Hz

残響時間

25Hz

?
残響時間

31.5Hz

?
残響時間

40Hz

?
残響時間

50Hz

?
残響時間

63Hz

?
残響時間

80Hz

0.34sec
残響時間

100Hz

0.36sec
残響時間

125Hz

0.35sec
残響時間

160Hz

0.24sec
残響時間

200Hz

0.26sec
残響時間

250Hz

0.25sec
残響時間

315Hz

0.26sec
残響時間

400Hz

0.25sec
残響時間

500Hz

0.24sec
残響時間

630Hz

0.23sec
残響時間

800Hz

0.19sec
残響時間

1000Hz

0.19sec
残響時間

1250Hz

0.20sec
残響時間

1600Hz

0.19sec
残響時間

2000Hz

0.20sec
残響時間

2500Hz

0.24sec
残響時間

3150Hz

0.24sec
残響時間

4000Hz

0.25sec
残響時間

5000Hz

0.26sec
残響時間

6300Hz

0.29sec
残響時間

8000Hz

0.26sec
残響時間

10000Hz

0.26sec
残響時間

12500Hz

0.26sec
残響時間

16000Hz

0.25sec
残響時間

20000Hz

0.26sec
インパルス応答から求めた周波数特性

30Hz以下は急激に下降しているのだが、暗騒音によりエラーしたレベルが表示されている。






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