ルームチューンの下調べ

 オーディオショップから問い合わせを頂いた。「最高グレードのオーディオ機器を設置し、最高グレードのチューニングパネル30枚を設置して調整をしたが、お客様の満足がどうにも得られない。サーロジックパネルで改善可能か?・・」 とのことであった。早速伺って拝聴させていただいたが、低域から高域までのすべての帯域に不自然な響きがまとわり付いている。

 部屋の改装図面で確認したところ、遮音の目的で木造在来工法の躯体の内側に浮き壁のインナールームを設けた構造で、叩いてみると、ぶかぶかと言ってよいほど強度が無い。



ルームチューン実施前の伝送特性
 伝送特性に異常はない、ごく普通の部屋の特性である。
やはり壁構造の不具合を伝送特性で判断することはできない。
デモパネルでチューンの方針を決め、この日は終了となった。
    
リスニングポイントの伝送特性

定在波が原因と思われる超低音の盛り上りがある。

盛り上がりのおかげで、この部屋の中で音楽が最も楽しく鳴るポイント。

4sec移動平均

リスニングポイントから1.1m前の伝送特性

4sec移動平均
リスニングポイントから2.1m前の伝送特性(
部屋のセンター).



SPの無響室特性に最も近い。

4sec移動平均






フロントにStainVeiLパネルを設置

 StainVeil パネルを設置すると音場がドラスチックに改善される。SPの背後に間接音が引き寄せられて立体感のあるサウンドステージが表れた。伝送特性も改善された。しかし浮き壁インナールームの明確な不具合が残響特性から読み取れる。ミッドバスの残響時間の数値が異常に大きい。




フロントのStainVeiLパネル設置後の伝送特性
リスニングポイントの伝送特性

マイクロフォンの設置誤差があるので厳密な比較は困難だが、40Hz付近の定在波のディップが小さくなった。


4sec移動平均


残響時間の周波数特性(残響音+壁振動の輻射音+フラッターエコー)
 一番上のグラフ --0--0-- がSP周辺にStainVeil(ステンベール)パネルを設置して測定した残響時間の周波数特性。その数値には壁振動による輻射音やフラッターエコーの響きも含まれている。

壁振動によるミッドバスの輻射音
 StainVeil パネルによりフロントの壁振動が減少したにも係わらず200Hzに輻射音のピークがある。インナールームの壁振動が部屋中に及んでいることを示唆している。壁を支える柱から作り変えることを提案したが、壁補強で対応することになった。

フラッターエコー
 バーチ材のGaleryパネルはプラスターボードの既存壁に比べたら格段に堅い、Gallery(ギャラリー)パネルで殆んどの壁面を覆ったときの残響時間が --0--0-- だが、堅くなったのだから中高音域の残響時間が長くなって当然なのに短くなっている???。 ---測定ミスじゃないの?--- と思うだろうが、旧壁面のフラッターエコーが盛大であったことの証である。Galleryパネルの3度の傾き(左右合わせて6度)がフラッターエコーを消去した証。





サイドとリアにGalleryパネルを設置


 小編成のアンサンブルから大編成のオーケストラまで、しなやかさとヌケの良さを実感できる表情豊かな再生音にしたい。すべてのオーナーに共通する切なる希望だが、ミッドバスの輻射音とフラッターエコーが最も大きな障害要因です。

 残響時間の測定結果から壁振動が原因のミッドバスの輻射音が音楽を台無しにしていることが明らかになっているのでGalleryWave2400で部屋中を取り囲めば解決です。しかし初めてのケースで大量使用と視覚的な居心地の関係が不明なため、半数だけ製作してStainVeil と共に仮置きして居心地を確認することにしました。


 Gallery wave 2400 をStainVeil と共に仮置きしてGalleryWave の最適な高さと配置を決める。



バッフル手前の壁面の上部は反射が強すぎてはいけない
 仮置き試聴の結果 Gallery-wave パネルのフロント側二枚は背丈 1500mm, 1900mm となった。「StainVeil-spパネルの最適背丈は、リスナー側に向かって必ず低くなる」(下図のオレンジパネル) との経験則から、バッフル付近のGallery wave でも同じことが起こるのでは・・ と予測済みであったが、予測の通りになった。バッフル手前の壁面の上部は反射が強すぎてはいけない(下図イエローパネルの1500、1900)。 --- 後日の調整で1900は2400に変更となった --- 。




 Gallery wave を支える横木の長さを整えてまもなく完成

Galery wave, StainVeiLパネル設置後の伝送特性

●フロント:StainVeiL 12枚 ●サイド:Gallery wave 20枚 
リア:偏向拡散 Gallery wave 6枚
 ●床:Gallery basso 2枚

 ぶかぶかした壁面を硬いGalleryが覆ったので、定在波の影響と思われる低音域のディップが復活傾向。位相干渉による高音域のピーク・ディップも初期反射音に比例して増加する傾向がある。

 表情豊かで質の高い楽器の存在感を表現するには実音を漂う空気感で包囲する必要がある。壁面からの初期反射音がそれを実現するが位相干渉による伝送特性の乱れも誘発する。しかしこの乱れはマイクロフォンの位置を少しズラすだけでコロコロ変化してしまう。言い換えれば耳が二つある人の聴覚には殆んど影響力を持たない特性と言える。

 伝送特性をSPメーカー発表の周波数特性に近づけるには、吸音材をどんどん投入すれば良い、しかし音楽がさっぱり伝わらない音場にどんどん近づき、楽器のスケール感が欠如した単なる音の集合体になってしまう。
リスニングポイントの伝送特性










4sec移動平均









 

StainVeil, Gallery wave パネル設置後の残響時間の周波数特性

 --0--0-- が最終状態。ミッドバスがドラスチックに押さえ込まれているものの、中高音域の残響時間に比べ、ブーミング帯域(125Hz〜250Hz)の残響時間が若干長い。ただしこのことは測定データの解析で後日分かったことで、現場のルームチューンではOKが出た。

 ところでこのグラフを見て不思議な現象に気付いただろうか? プラスターボードと壁紙の軟弱な壁面に、@:27kg のGallery waveが26枚(総質量:702kg)並べられたにも係わらず中高音域の残響時間が短くなっている。この現象には何度も遭遇しており、始めのうちは測定誤差か?、 ???・・ であったわけですが、フラッターエコーが多い部屋ほどその傾向が強いことが分かり、残響音の増加分に比べ、フラッターエコーの減少分が多いときに発生する現象であることが分かりました。

 残響音とフラッターエコーの関係にもう一つ悩ましい問題があります。ルームチューン前の400〜500Hz前後の残響時間の数値が、壁振動に起因するものなのか、フラッターエコーによるものなのかの判別が難しいのです。 幸いミッドバスを含むこのあたりの帯域の残響時間は中高音域に比べて短目でも良いことが分かっているので、吸音傾向で処理すればどちらも解決します。







約1年後、フロント壁面を強化
 一旦OKが出たルームチューンだが、ミッドバスの盛り上がりは徐々に気になり始めるものです。さらに完成度を上げることになり、正面の壁面の強化を行いました。

 フロント壁面全体を拡散性にしてしまうと左右(横)方向の解像度が低下することが分かっているので、新設のパネルはリブ構造ではあるものの、左右方向への反射音の性質は平面反射になる構造としました。

 SP外側上部の白い壁面も横方向の解像度を確保する策で、壁紙程度の吸音性が必要になることがあるエリアです。既設の壁紙が丁度具合の良い特性であったので、そのまま残すことにしました。


 後壁は左右方向への拡散反射性にするとサウンドステージがリスナー側にせり出す傾向になることが分かっているので、GalleryパネルとStainVeilパネルの構造をミックスしたニューモデルです。このパネルは最初のルームチューンで設置したものです。


完璧なオーディオルームまでもう一息
 この部屋には”天井(真ん中の板の部分)〜床”のフラッターエコーが残っています。天井の真ん中以外の部分が吸音テックスで中高音域の残響時間を短くしています。天井は強度が低いので、振動によるミッドバスの輻射音も悪さをしている筈です。やや船底天井の傾向がありますが傾斜が浅いのでこれは無害です。完璧なオーディオルームまでもう一息のところまでたどり着きました。

 測定の時間がとれず設置のみで終了になりました。無償ルームチューンで山形方面に行く機会をみつけて残響時間などの測定をする予定です。

■偏向拡散 Gallery wave(仮名)■

 背後の壁面のパネルが2007年発売予定の偏向拡散 Gallery waveパネルの第1号モデルです。
 
StainVeiLパネルと同じ ”高音域の拡散機構ミッドバスの吸音機構”に加え、”偏向反射の機構(フラッター消去)” をプラスしたルームチューニングパネルの次世代モデルです。再生音の良し悪しを決めるルームパラメータが5つ(定在波、フラッターエコー壁振動初期反射音残響時間)のうちの4つのバランスを最適値に整えるニューモデルです。。





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