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静岡県清水町地域交流センター多目的ホール
コンサートも可能な音響特性に改善する

公式ホームページ

改装前の多目的ホール(350席)
舞台がぐるりとカーテン状のクロスで覆われている

楽器の発音は四方八方に拡がる無指向で、客席に向かう直接音より、
舞台のカーテンにぶつかってから客席に到達する高音域を失った反射音の方が多い。

低音域を多量に含む反射音が混ざり合って
低音の厚みが増え過ぎた楽器の音は愉しい音楽を奏でてくれない。


44枚のSV1800パネルを設置してホールチューンの効果を確認

SV3600 x 30, SV2700 x 10, SV1800 x 10 の吊り下げ完了

測定ポイント(SP・Mic配置)


多目的コンサートホールの最適残響特性

 音楽専用ホールに匹敵する残響時間を確保し、加えてオーディオルームのような解像度が実現出来れば多目的ホールとコンサートホールが両立します。

 しかしオーディオルームのような狭い空間(50立米/12畳間)でも短い残響時間を大幅に長くすることは難しいのに、2000立米(ステージを含めると3000立米)のホールの残響時間を長くするのは至難の業です。

 音楽演奏に使ううえでこのホールの問題点は、

●演奏者にとっては、自分の楽器が出している音が聞き取りずらく、演奏全編に力が入ってしまって抑揚感のある表情豊かな演奏をすることが出来ない。

●客席には、楽器の音の高音域がステージを囲むカーテンでで吸音されてしまって楽器の表情が消え消えになり、演奏者の気迫が伝わらない。

 このような症状の場合、ステージ周辺の初期反射音の中高音域を増やしてやると、演奏者には自分自身の音やアンサンブルが良く聞こえるようになり、客席には抑揚感豊かな楽しい音楽が伝わるようになります。

 ホールの音響特性を表すパラメータとして「最適残響時間」と「残響時間の周波数特性」を用いますが、「最適残響時間」の50%程度の誤差は「残響時間の周波数特性」を適正に補正することで聴感補正することができます。

 竣工してしまったのホールの場合、全帯域の残響音を平行移動するように増減しようとすると膨大な費用がかかり事実上実行不可能ですが、残響音の一部の帯域を増減する「残響時間の周波数特性」の変更は大きな費用もかからず実行可能です。

 従って既設ホールの音響調整でとりわけ重要なパラメータは「残響時間の周波数特性」で、本件でも「残響時間の周波数特性」を制御してホールチューンを実施します。


参考文献 : リスニングルームの設計と製作例 / 加銅鉄平 著 / 誠文堂新光社
最適残響時間

 小型多目的ホールなのでリスニングルームのグラフを使い、残響時間の目標値は1.2秒。

 前述のように残響時間を大きく増やすことは難しいので、初期値に比べて若干増加傾向になればOKです。
残響時間の周波数特性

 小型ホールなので、ミッドバスの上昇ポイントがやや低域寄りの3番を目標特性とする。

 楽器の音が楽しく躍動しながら客席に届くためには、残響時間の周波数特性のボトムが500Hz前後であることが重要なポイント。

<参考:ボトムの帯域>ボトムの周波数は空間の大きさにより最適値が異なります。
● 6〜12畳のリスニングルーム : 125〜250Hz
● 20〜30畳のリスニングルーム : 150〜300Hz

舞台の残響特性(改修前 & 改修後)

測定配置01

改修前の舞台(演奏ステージ)後部・残響特性 RevDataNo2010-03-25-0001

● スピーカ : ステージセンター
● マイク : ステージセンター・カーテン前方50cm


 -◆-◆-(実測特性)から演奏家の耳に届く楽器の音の明瞭度を推測することができます。中音域(400〜800Hz)に比べて高音域(1250〜5000Hz)の残響時間が長ければ、楽器の実音に明瞭度の高い余韻がブレンドされて楽器のダイナミックレンジが弱音方向に拡大し、楽器の音にメリハリが加わってアンサンブルの深みが増大します。深みのある音は演奏家の実力を引き出す誘い水になります。

 残響音(-◆-◆-)の中音域(400〜800Hz)は目標特性(-■-■-)と比較して同等または若干短めが望ましく、高音域(1250〜5000Hz)は同等または若干長めが望ましいのですが、実測結果は逆の傾向を示しています。

 残響音の低音過多(高音過少)があると、演奏の弱音部分がブーミーな残響音にマスクされて音楽のダイナミズムが演奏家自身はもとより、客席にも届きません。

 このホールの改修前の音響特性は、演奏家に我慢の演奏を強いる過酷な特性でありました。

 -◆-◆- 実測残響時間の周波数特性  -■-■- 補正目標特性(目標特性 x 0.78)




測定配置02


改修後の舞台(演奏ステージ)後部・残響特性 RevDataNo2010-03-25-0002

● スピーカ : ステージセンター
● マイク : ステージセンター・SV3600パネル前方50cm


 -◆-◆-(実測特性)の中音域(400〜800Hz)が目標特性(-■-■-)のラインより下になり、高音域(1250〜5000Hz)も上昇傾向になった。特筆すべき点は高音域(1250〜5000Hz)の凡てのポイントが中音域(400〜800Hz)の残響時間を上回ったことで、メリハリと深みのある音が演奏家に届くようになったことだ。

 このデータだけ見ると800Hz比で1000Hzの残響時間が長くなり過ぎで、楽器の音に硬さが付きまとうかもしれない、と懸念されるほどの変わりようだが、ステージ上の客席側でサンプルした残響データと付き合わせることにより、適切な特性であると判断出来る。

 -◆-◆- 実測残響時間の周波数特性  -■-■- 補正目標特性(目標特性 x 0.78)




測定配置03


改修後の舞台(演奏ステージ)前部・残響特性 RevDataNo2010-03-25-0003

● スピーカ : ステージセンター
● マイク : ステージセンター・客席側


 -◆-◆-(実測特性)が -■-■-(補正目標特性)に寄り添うように並び、高音域(1250〜5000Hz)の残響時間も5000Hzを除き中音域(500Hz)の残響時間を上回っている。

 楽器演奏が行われる舞台の有効エリアの残響特性は、舞台後部(下記グラフ)と舞台前部(上記グラフ)の測定データの平均値の残響特性を示すと思われるので、舞台上で演奏家が聞く音は解像度が高くメリハリのある音と推測できる。2010年4月17日(土)の金指英樹氏のピアノコンサートを聴いて見込み通りの音に仕上がっていれば改修完了である。

 -◆-◆- 実測残響時間の周波数特性  -■-■- 補正目標特性(目標特性 x 0.78)


 ステージ上で測定した<測定配置01〜03>の残響データによると、2000Hz以上の帯域の残響時間が短かいという共通の類似点があります。木で内装した建物では、4kHz以上の帯域の残響時間が中音域に比べて長くなる可能性はない、との経験値がありますので、予測の範疇です。

 但し本件ではステージのエリアに改修前と同じ量のカーテン類が反射パネルと共存しており、高音域が減衰する傾向が通常より強く出ている模様です。

 音楽以外の催し物ではカーテンを下げてパネルの反射面を覆い、初期設計値に近い音場を再現出来るようにとの配慮によるものですが、改修後の残響特性によれば、カーテン無しで凡ての催し物が可能と思われる解像度と響きが得られたと思われます。

 ホールの響きの質は残響時間の長さや、その周波数特性で説明されるのが通例ですが、数値化しにくいので利用されない初期反射音もホールの音質を決定する重要なパラメータです。

 音楽専用ホールに比べて残響時間を短かく設計する多目的ホールの音質をコントロールする上で初期反射音は特に重要なパラメータで、本件の改修に使用した50枚のSV(StainVeil/ステンベール)パネルが高音域の一次反射音を増やす効果が高いため、残響時間の周波数特性から連想される高音域の不足は発生しません。


舞台の残響特性(改修前 vs 改修後)

測定配置01

測定配置02

 中音域の残響時間短め、高音域の残響時間長め、がスピーチや、演劇、音楽会の凡てを並立させるため使い易い多目的ホールの必要条件です。

 改修前(-◆-◆-)に比べ、改修後(-×-×-)の特性は上記条件に照らして大幅な改善が認められます。

 -◆-◆- 改修前の残響時間周波数特性
 -×-×- 改修後の残響時間周波数特性



客席の残響特性(改修後)

測定配置04


改修後の客席3列目残響特性 RevDataNo2010-03-25-0004

● スピーカ : ステージセンター
● マイク : 客席3列目センター


 -◆-◆-(実測特性)はステージ上の音源から遠くなった分若干高音域が減少傾向だが、1250〜5000Hzの残響特性は5000Hzを除いて500Hzの残響時間を上回っており、ステージ上の演奏からメリハリの有る音楽が客席に届いていることを表している。

 但し、客席側左右壁面の床から天井までの下半分に注目すると、凸凹してはいるものの、平行壁であるためにフラッターエコーが大量に発生しています。

 このホールはスウィートスポットより最後列の席の方が愉しい音楽を聴かせてくれます。ステージから届いたメリハリや躍動感をフラッターエコーがスポイルしていることがその原因です。

 フラッターエコーは観客にとって理由不明な不快の原因。要改修項目です。

 -◆-◆- 実測残響時間の周波数特性  -■-■- 補正目標特性(目標特性 x 0.78)




測定配置05


改修後の客席最後列残響特性
RevDataNo2010-03-25-0005
● スピーカ : ステージセンター
● マイク : 客席最後列センター


 このホールは一番後ろの列が一番良い音楽を聴かせてくれる、耳の高さの左右の壁が斜めになっており、フラッターエコーがダイレクトに耳に飛び込まないからだ。

前方で発生しているフラッターが無しになれば、この列の音も今以上に良くなるはず。でもそのときはスウィートスポットがベストポジションになるはず。

 -◆-◆- 実測残響時間の周波数特性  -■-■- 補正目標特性(目標特性 x 0.78)


残響特性参考データ

●座席数500 のカザルスホールと津田ホールの残響特性

 同じ座席数のホールであるが、形の違いから響きの量とクリアさのバランスが異なる。津田ホール系の中音域下降、高音域上昇のカーブの方が音がクリアで、多目的な用途向きである。演奏による音響テスト参照

建築の音響設計 永田穂著 オーム社


●東京近郊の多目的ホールの室容積と残響時間

●(12)立川市民会館小ホール    : 288席/0.7秒
●(13)調布市民福祉会館小ホール : 300席/0.9秒
●(14)佐野市文化会館小ホール   : 300席/0.95秒

建築の音響設計 永田穂著 オーム社