メールをいただきました


こんにちは。お久しぶりです。

チョットルームチューンで悩んでいる部分がありますので、ヒントをいただければ幸いです。

一時かなりルームチューンに凝っていた時期がありましたが、ルームチューン施工後どんどんチューニング材が必要なくなり、最終的にはサーロジックのルームチューン以外はほとんど撤去してしまいました。

ただし、最近は安定したものの、これはというものはありませんでした。

ルームチューンに関しては、御社の天井に張るものがありましたが、すべての帯域に効果があるのでしょうか?

また、ルームチューンのチューニングはどのような手順で進めていくのでしょうか?
教えていただければ幸いです。

JBL S-9500 
ウッドホーン欅無垢板特注
 
> ルームチューンのチューニングはどのような手順で進めていくのでしょうか?
 
1. オーナーが聞き慣れた楽曲を2〜3試聴させていただき、調整の基準にするCDを選ぶ。■この時点で部屋の特徴をつかんでおく。
 
2. オーナーが不満に思っている症状をお尋ねする。■奥行き、佇まいなどの立体感が不足しているとの訴えが多い。

 
3. 解像度と立体感は初期反射音の量とその方向で制御できるので、LV600パネルを組み合わせてオーナーの好みに合うパネル配置を作る。■とりあえず一段落。ここまでで2時間程度。
 
4. 更にパネル・スカラホールなど追加する方向で、私がお勧めする音場を作る。■両者が満足できる音場が完成したら、
 
5. コストパフォーマンスを考慮しながら、オーナーが許容できる範囲までパネルを減らす。測定も実施する。■以上で終了で 3〜5時間程度。測定器を使い厳密な調整をすると更に時間がかかります。
 
なるほど、よくわかりました。
 
 最近の傾向ですが、一旦外したルームチューンですが、再度施工しました。一次反射部分にサーロジックのルームチューンを置いてありますが、スピーカーのすぐ横の壁が気になったので、そこにスノコ(米松)を斜めに置いたらある程度つやが出てきました。後カーテンをスピーカーの後方両サイドの壁とスピーカー中心の後ろの壁に施工しました。かなり良くなってきました。
 
 しかし、ルームチューンが一体周波数特性にどのような変化を与えるのかが解明されていません。このままでは“勘”で終わってしまいます。よろしければ、実践をお願いしたいと思いメールさせていただいたしだいです。

■ プリアンプ  ソニーデジタルプリアンプ TA-E9000ES
■ パワーアンプ   BOWテクノロジー WALRUS
■ CDトランスポート  OJI スペシャル DPAT01
 
> 天井に張るものがありましたが・・・
 ScalarHoleには吸音タイプと拡散タイプがあり、どちらのタイプも低音域は吸音ですが、吸音するの帯域は150Hz以上です。吸音タイプはフロントのSPの手前付近の天井に付けるもので、天井〜床のフラッターエコーを止める役目です。
 
 拡散タイプはリスニングポジションから後ろの天井に取り付けるもので天井の空間を高く感じさせて、コンサートホールのイメージを作るものです。しかしこの効果はフロントのLVパネルの背を高くすることでも同じような効果が得られますので、最近の使い方はフロントに背の高いパネルが置けないときの補助アイテムとして使っています。

吸音スカラホール

拡散スカラホール
 
LVパネルのデモに伺いました
 
 このオーディオルームは完成当時にお尋ねして出来立てほやほやの音を聴かせて頂いています。当時の記憶によると、残響時間が短く、どちらかと言えばオーディオ嗜好の強い、繊細さの勝った音作りであったと思います。
 改めてお尋ねしてみるとオーディオ機器という機械から送り出された音とは到底思えないような優しさと温かさいっぱいの再生音に大変身していました。にもかかわらず音楽の表情が豊かで、十分な分解能をもち、そしてホットに描かれていました。
 
 デモ用のLVパネルをJBL(中音は特注のウッドホーン)の後ろに3段(1800mm)積み上げ、左右の壁際にあった松のスノコ とLV1200の配置を変更し、センターラックのアンプの上にも600mmのLVパネルを乗せて概略完成となりました、その後床にLV300が追加されチューニング完了となりました。
 
ピンクノイズとFFTで測った伝送特性
 
SP軸上1m
 チューニング前に最初に聴かせて頂いた音のイメージから、スピーカー自身の周波数特性は、きっと、Lo、Hi、が落ち気味で中域上がりであろうと予測していたのだが、何と!さに非ずであった・・・

 CDトランスポートが ”OJI スペシャルのDPAT01” で、オーナーの説明ではCDからの読み取りエラーゼロでHardDiscにCDの中身をコピーし、高精度のクロックでD/Aに送るので、ジッターが極少になるとのこと。ジッターがゼロに近くなると音の分解能が向上し余韻の最後のひとかけらまで聴き取れることは体験していたが、音楽がかくも円やかに描かれるとは予想していなかった。初体験である。

 スピーカーの周波数特性にマイルドな原因を探すとすれば、63〜400Hzの若干の盛り上がりだが、音の円やかさは周波数特性では説明がつかないほどに円やかであり、高分解能でもある。
SP軸上2m
若干の微調整は20x30x1000mm程度の棒きれを使う
リスニング・ポジション前1m(L+Rch)

CDの再生は手元のマウスで操作する
リスニング・ポジション(L+Rch)

 聴感に頼ってチューニングを終え、伝送特性を測ると、リスニングポジション付近の伝送特性が周辺に比べて良くなっていることが多い。本件も例外ではなかった。
測定データから分かること
●軸上1m位置では ”JBL S-9500(ウッドホーンは特注)” の低音域は30Hzまでフラット、その下は30dB/oct 程度で下降する ●高音域は20KHz以上まで完全フラット ●定在波の影響で50Hzに伝送特性のディップが出来る可能性がある。 ●SP軸上1mでは凹んでいた 16〜25Hzの音圧がリスニングポジションでは上昇している。音源に無かった音であるから、壁、床、天井の振動が作り出した超低音の可能性、または交通機関による振動音であるが、静かな住宅街であるから前者の可能性が高い。但しパイプオルガンを除く楽器のファンダメンタルとして発音されることが無い音域なので、超低音だけの軽微な壁鳴りであればコンサートホールで感じる一種の緊張感(位相の異なる超低音が重なり合い醸し出すイリュージョン)を生むので音楽鑑賞にとってプラスの効果をもたらす (しかしその鳴りがミッドバスに及ぶと音楽が台無しになる)。

■注 : 低音域のレベルアップは定在波が原因となる可能性もある、本件の部屋の寸法は、巾3.2b 奥行き6.5b 天井は勾配天井でスタートが2.6メートルで一番高いところで4.7メートルであるから、定在波の下限周波数の波長は 6.5×2 = 13mである。周波数に換算すると 340÷13 = 26Hz。従って 16Hz が上昇する理由にはならない。
■参考 : 下記はRC打ちっ放しのオーディオルームで、定在波の下限周波数が 33.7Hzの部屋。コンクリート剥き出しで壁振動が無いので理論上33.7Hz以下に共振音は発生しない。測定結果でも 31.5Hz以下は素直に下降しておりレベルアップが無い。

チューニングのデモはお気に召して頂けたようです
先日はありがとうございます。
大変勉強になりました。ルームチューン完成後の音は
まさに自分が描いていた理想形に近いものでした。
また、非常に癖があると思っていた部屋・再生音の特性もフラットに近いもの(ルームチューン施工後)で
ビックリしました。そのままにして欲しいという
欲求もありましたが、グッと我慢…
ただ、自分ではできそうもないので、購入の際には
セッティングもお願いできればと思っています。

とにかく感動でした。
 
 


 
インパルス応答から情報を読む(残響、全データ)
--- データの形から定在波、壁振動を探す ---
部屋によるカラーレーションは5種類のモードの組み合わせ
1:定在波 2:フラッターエコー 3:初期反射音(鏡像) 4:残響音 5:壁・床・天井の振動
 
1. 定在波
 部屋の固有波長の振動モード(定在波)は部屋の3辺の長さ(L,W,H)により一義的に決まるもので、1次(半波長モード)と2次(全波長モード)の振動モードの組み合わせを表にすると右のようになる。周波数は本件の値。

1.1 定在波は斜め壁で激減する
 右の表の白く空いた升は斜め天井により定在波の発生が抑えられた振動モードのポイント。天井を斜めにするだけで総計’26ポイント’であった定在波のモードが’8ポイント’に激減する。

 斜めの天井により白枠に相当する共振周波数が幅広い帯域に分散される。’8ポイント’の定在波の間の周波数帯が適度に埋まり、定在波が目立たなくなる。

 更にLVパネルにより前後の平行壁または等距離の壁が消滅(100%ではないが100%と仮定すると)すれば ”表1” のように定在波の周波数は僅か’2ポイント’になる。壁や天井を斜めにすることがオーディオルームの設計にとって如何に重要であるか、お分かり頂けるものと思います。

右の表は
L = 6.5m、 W = 3.2m、 H = --
による計算結果

既存のオーディオルームのチューニングに関する限り、定在波による伝送特性の乱れを気に掛けても仕方が無い。リスニングポジションを多少前後すれば良いし、SPの位置を前後しても良い。LVやStainVeilパネルの設置によって、リスニングポジションの伝送特性をそこそこフラットに追い込むことも出来る。

新設や改装であれば是非とも天井を斜めにして下さい、リスナーの側を高くした本件のタイプの天井が音が良い。
 既設の住宅でも木造の在来工法の部屋であれば天井裏にスペースがあり改装が可能である。
6畳


振動
モード
周波数
Hz
1,0,0 26.2
1,1,0 59.2
1,0,1  
0,1,0 53.1
0,1,1  
0,0,1    
1,1,1  
2,0,0 52.3
2,1,0 74.6
2,0,1  
2,1,1  
0,2,0 106
1,2,0 109
0,2,1  
1,2,1,  
0,0,2  
1,0,2  
0,1,2  
1,1,2  
2,2,0 118
2,2,1  
2,0,2  
2,1,2  
0,2,2  
1,2,2  
2,2,2  
定在波の周波数を計算

nx,ny,nzには左の表の振動モードの数字を当てはめる
 fxyz:基準振動数  L:長手方向の寸法(m)
 C:音速(常温で340m/s)  W:幅方向の寸法(m)
   H:高さ方向の寸法(m)
テクニクスのページから借用しました。

=表1=
振動モード 定在波の周波数
0, 1, 0 53.1Hz
0, 2, 0 106Hz
斜め天井に加え、フロントにLVパネルを置くと’26ポイント’あった定在波の周波数が’2’に激減する。

 定在波の振動モードの3つの数字(0〜2)のうち二つの数字が’0’であるような共鳴を軸波(axial wave)、一つだけが’0’である共鳴を接線波(tangential wave)、いずれもが’0’でない共鳴を斜め波(oblique wave)という。軸波は相対する2面だけが関与する一次元の共鳴であり、接線波は二次元、斜め波は三次元の共鳴である。この三種類の共鳴の中で軸波が最もエネルギー密度が高く、減衰にも時間がかかる。

 グレーの表から軸波をピックアップすると、
No. 振動モード 定在波の周波数
1 1,0,0 26.2Hz
2 0,1,0 53.1Hz
3 2,0,0 52.3Hz
4 0,2,0 106Hz
部屋の寸法が、縦:6.5m、横:3.2m とほぼ倍数の関係にあるのでNo.2 と No.3 の定在波周波数の値が近似している、エネルギーが大きい軸波の重なりはブーミングの原因となるので、新築であれば避けるに越したことはない。

推奨されているオーディオルームの寸法比
石井 1:0.83:0.7
(1:1.186:1.428)
石井 1:0.845:0.725
(1:1.166:1.379)
ASHRAE 1:1.17:1.47
ASHRAE 1:1.45:2.10
BOLT 1:1.28:1.54
IAC 1:1.25:1.60
SEPMEYER 1:1.14:1.39
  1:1.26:1.41
参考文献:
テクニクス/石井伸一郎

SOUND SYSTEM ENGINEERING/Don and Carolyn Davis
 
1.2 測定結果に現われる定在波の形
 エネルギーの大きい1次と2次の定在波のポイントは 26.2., 52.3, 53.1, 59.2, 74.6, 106, 109, 118Hz。LVパネルの設置の形態から前後方向の定在波が減少するはずで、中でもエネルギーが大きい軸波(26.2Hz, 52.3Hz)付近に変化があると予測される。
 狭い部屋の低域には残響理論の前提である拡散された音場が存在しないので残響のグラフは意味をもたない。そこで測定の生データであるエコータイムパターンから判断する。20Hz〜50Hzはいずれの周波数帯もLVパネル有りの方が振動レベルが下がっている。
 ■ 20Hz、 LVパネルなし
 ■ 20Hz、 LVパネルあり
 振動レベルが下がっている。

 ■ 25Hz、 LVパネルなし
 ■ 25Hz、 LVパネルあり
 振動レベルが下がっている。

 ■ 31.5Hz、 LVパネルなし
 ■ 31.5Hz、 LVパネルあり
 僅かだが振動レベルが下がっている。

 ■ 40Hz、 LVパネルなし
 ■ 40Hz、 LVパネルあり
 振動のレベルが下がっているが定在波のポイントではない。パネルで遮蔽され壁振動減少か?

 ■ 50Hz、 LVパネルなし
 ■ 50Hz、 LVパネルあり
 振動のレベルが下がっている。


4.残響音(残響、全データ)
低音域は定在波または壁振動の減衰時間、
中音域はフラッターエコーの減衰時間、
高音域は残響時間

 数年前、オーディオルームが完成した直後にお尋ねした記憶では、天井など各所に吸音体が設置されており、クリアで繊細だが、平面的な佇まいが印象に残ったオーディオルームであった。しかし今回は別世界で、音楽が溢れておりました。このままでいいんじゃない・・。と思う気持ちもありましたが、フラッターエコーが発生しており、解像度に問題はないが、CDに刻まれた本来の音と比べればちょっと下肥りかな?・・ と感じました。

 残響時間のデータに下肥りの原因を発見。200Hz〜400Hzの残響時間が長目である。
周波数 16 20 25 31.5 40 50 63 80 100 125 160
残響時間(チューン前) ? ? 1.0 1.3 ? 0.9 0.85 0.55 0.45 0.53
残響時間(チューン後) ? ? 0.95 0.7 0.85 1.2 0.85 0.55 0.4 0.55
周波数 200 250 315 400 500 630 800 1k 1.25k 1.6k 2k
残響時間(チューン前) 0.77 0.67 0.54 0.45 0.43 0.45 0.4 0.47 0.49 0.49 0.45
残響時間(チューン後) 0.64 0.62 0.63 0.51 0.45 0.42 0.45 0.48 0.49 0.48 0.46
周波数 2.5k 3.15k 4k 5k 6.3k 8k 10k 12.5k 16k 20k all
残響時間(チューン前) 0.44 0.45 0.46 0.43 0.45 0.43 0.42 0.43 0.43 0.4 0.46
残響時間(チューン後) 0.47 0.47 0.48 0.45 0.46 0.43 0.43 0.44 0.5 0.43 0.5

2. フラッターエコー
 200Hz〜400Hzの残響時間が長目で、その原因はフラッターエコーであった。残響音の該当帯域だけを聞けば、ちょっと捩(よじ)れた減衰途中のピッチが揺れる音なので一聴瞭然です。[250Hzのフラッターエコーの音][315Hzのフラッターエコーの音][400Hzのフラッターエコーの音]。(注:Windowsに「Media Player」がインストールされていれば残響音が再生されます)

 250Hz〜400Hzの帯域にフラッターがあると再生音に丸みが付き音に温か味が出て聴きなれるととても心地良い音です、しかし普通は解像度が下がり、いずれ不満の原因になります。本件では解像度の低下が見られないので心地良さばかりが印象に残りますが、やはり直しておかないと相性の悪い録音にぶつかります。LVパネルの設置で前後のフラッターが減り、測定データは改善されたことを示していますが、左右のフラッターは殆ど手付かずのまま残っています。様子を見ながらカーテンを使わずに多少でも改善してください。
 
5. 壁振動
 解像度が低下しない理由は100Hz〜160Hzの残響時間が短くなっているからで、板振動による吸音効果の可能性大。

板壁の吸音率 (建築の音響設計/オーム社 永田穂著 より)

 壁の強度が低いと150Hz付近の帯域に振動音が出てドロドロした音になるのですが、オーディオルームとして設計した強度の高い部屋だけに振動音は100Hz以下に現われているようです。100Hz(できれば50Hz)以下の多少の振動であれば、時間が遅れて発生する振動音が、ホールの扉を開けてその会場に一歩足を踏み入れたときに感じるロングパスエコーの位相干渉に似た緊張感を醸し出し、音楽鑑賞にとってプラスの効果をもたらす可能性もある。
 ■ 40Hz、 LVパネルなし
 ■ 40Hz、 LVパネルあり
 振動のレベルが下がっているが定在波のポイントではない。低音の音エネルギーがパネルで遮蔽され、壁振動が治まったのか?


チューニングにより、物理特性の何処が変わったのか
何処を変えることを目的にチューニングを実施すれば良いのか
 適度な響きがあって、しかも音が明瞭に聞こえることが音の良いオーディオルームの条件の一つであるが、それを物理量に置き換えれば、全帯域に渡って指数減衰する残響音が均一に存在することと、十分なエネルギーを持った明瞭な直接音が存在することである。

指数減衰する残響音
指数減衰は対数変換して
デシベル表示すると直線になる


残響音の指数減衰特性の改善
(インパルス応答、全データ)
315Hzに改悪と思われる波形があるが、概ね改善方向。
LVパネルなし LVパネルあり
40Hz
定在波によるブーミング
40Hz
ブーミングが小さくなる(改善)
50Hz
定在波によるブーミング
50Hz
ブーミングが小さくなる(改善)
63Hz
63Hz(改善)
200Hz
フラッターのレベルが直接音より大きい

200Hz
フラッタのレベルが下がった(改善)
(左右方向のフラッターは残ったままであるが減衰特性は改善された)
250Hz
フラッターのレベルが直接音より大きい
goSound250HzLV.wav へのリンク

250Hz
フラッタのレベルが下がった(改善)
(左右方向のフラッターは残ったままであるが減衰特性は改善された)

goSound250HzLVnon.wav へのリンク
315Hz
goSound315HzLV.wav へのリンク

315Hz
フラッタのレベルが上がった(改悪)
goSound315HzLVnon.wav へのリンク


残響音の高音域密度の改善
 本件のオーディオルームでは、正面の一部にカーテンがあり、床の手前部分にカーペットがあり、浮雲の吸音体が3個ある以外ソファーなどの吸音体は無い。天井が高いこともあり、反射面に比べた吸音面の量は平均的なオーディオルームに比べて少ない方である。残響時間の値も概ねフラットである。
残響時間(チューン前)
500Hz 3.15k 4k 5k 6.3k 8k 10k
0.43 0.45 0.46 0.43 0.45 0.43 0.42
残響時間(チューン後)
500Hz 3.15k 4k 5k 6.3k 8k 10k
0.45 0.47 0.48 0.45 0.46 0.43 0.43
 しかしチューニング前のインパルス応答の波形を詳細にみると、高音域の総エネルギー量が急減していることが読み取れる。5kHz以上の高音域の残響音は音楽に躍動感を与え、且つ音に丸味を与える成分であるから、むしろそのエネルギー量が上昇するくらいが好ましい。
 再生音の高音域が不足していると音楽の躍動感が不足し、音の分離も悪くなる。吸音体の少ない本件でも高音域の拡散音が不足しているのだから、多くのオーディオルームで高音域の拡散音が不足していると考えて差し支えない。そのような状況で、「アンプを硬目の音質のものに交換」、「電線を純度の高い銅材のものに交換(一般に高音域のエネルギーが増える)」、「イコライザでHiを上げる」などの手段を講じると、楽器の音がクリアになり音楽の躍動感が増すように作用する、しかし同時に楽器自身の音もシャープで硬い音になってしまう。つまり「解像度、躍動感」と「円味のある温かい音質」がトレードオフの関係になってしまうのである。

 一方、真の原因である高音域の拡散音のエネルギーを増加させる改善方法であれば、スピーカーが送り出す直接音の周波数特性・過度特性には何ら影響を与えない。従ってトレードオフの関係が成立しない。「躍動感のあるクリアな高音域」と「円味のある温かい音質」の両立が可能となる。

LVパネルは8kHzに向かって拡散音のレベルが上昇するように設計されている、測定結果は10kHzがピークとなり設計値を概ね満足している。
LVパネルなし LVパネルあり
2500Hz、 0.44sec、
パネル無しでも十分な残響音エネルギーがある
2500Hz-LV、 0.47sec、

4000Hz、 0.46sec、
残響音エネルギーが減り始める
4000Hz-LV、 0.48sec、

5000Hz、 0.43sec、
5000Hz-LV、 0.45sec、
6300Hz、 0.45sec、
6300Hz-LV、 0.46sec、
8000Hz、 0.43sec、
エネルギーは激減しているが、残響時間はパネル有りと同じ
8000Hz-LV、 0.43sec、
拡散音を増やしても残響時間は変わらない。
残響時間の数値だけで
最適残響量と思ってはいけない
10000Hz、 0.42sec、
10000Hz-LV、 0.43sec、
12500Hz、 0.43sec、
12500Hz-LV、 0.44sec、
 
 
ルームチューンにより、聴感で感じる音の何が変わるのか
1.コンサートホールのクラシックの生演奏であれば、センター以外の客席でもオーケストラの幅いっぱいに目で見る通りの楽器の配置が聞き取れる。しかしポップスのステージのようにPAのスピーカーが使われると、右側の座席では全ての楽器が右側のスピーカーに寄せ集められ、左側の座席では左側のスピーカーに寄せ集められる。

 楽器の発音であれば指向特性が360度傾向であるからセンターの席と端の席に到達する直接音の音色に大きな違いは無い。しかしPAによる発音では360度指向性にはならず、着座位置の反対側のスピーカーの高音域は聞こえない、従って着座位置の方向へのステージの寄せ集めが発生してしまう。

スウィートスポットの拡大
 オーディオ再生でも同じことが起こるため狭いエリアにスウィートスポットが発生するのだが、スピーカーを360度指向性にすれば部屋中がスウィートスポットになる可能性がある。LVパネルを用いた実例でも、パネルによりスピーカーの指向特性が360度指向性に近付き、ついでにパネルの質量で部屋が変形されたと等価になって定在波のエネルギーが弱まると、スウィートスポットが部屋中に広がる。
スウィートスポットの拡大がLVパネルによるチューニングの第一番目の目的であり、LV1200、3セットによる標準配置で大方達成できる。
 

2.
コンサートホールの音楽の明瞭度の評価に用いられる’C値’は次の式で計算される。
Pi はエコータイムパターンの瞬時音圧で2乗するとエネルギー量を表す
 式の意味するところは直接音の到来から80msecまでの初期反射音を直接音の一部と考えて総エネルギー量を分子に置き、80msec以降の拡散音(残響音)の総エネルギー量を分母に置いて、「直接音の総エネルギー÷拡散音の総エネルギー」の比率でそのホールの音楽の明瞭度を数値化したものである。比率を対数変換してデシベルで表現したものが’C値’であるが、大事なポイントは80msec以内という直接音と同化して直接音の明瞭度を上げる拡散音の範囲(時間)が規定されていることである。
 
直接音の明瞭度が上がる
 オーディオルームに於いても、もっと短いながら、80msecに相当する直接音と一体化する拡散音の時間が存在している。例えば下記のログハウスのスピーカーはフリースタンディングである。後ろに十分な距離があるので、スピーカーの後ろに置くLVパネルの距離変えながら音楽の明瞭度との関係を探れば、その時間の概略の数値が得られるかもしれない(左の階段がちょっと邪魔だが)。もう一度お尋ねする必要があるが・・・。
スピーカーのバッフルから後ろ、2mの距離にLVパネルを置くと12msec程度遅れた初期反射音が増加する。これまでの設置例からこの範囲は直接音の明瞭度を上げる拡散音であることが分かっている。

フリースタンディングの配置でステージの奥行きがが現われている空間では、通常より少な目のLVパネルをスピーカーに近い背後に置き、スピーカーの直接音に明瞭度と艶を与えることで、ともすると音の芯が柔らかくなり過ぎる感のあるフリースタンディングの佇まいを凛としたものに成形できる可能性がある。
 
3.コンサートホールを評価するパラメーターとして音楽の躍動感を数値化するものは提案されていないようであるが、オーディオルームでは最も重要なパラメータである。
音楽の躍動感が増加する
 これまでの経験値では8kHz付近の拡散音のエネルギー量が音楽の躍動感と符合するパラメータのように思えてならない。
拡散処理の無いオーディオルームの8kHzのエコータイムパターン。
LVパネルで拡散処理を施したオーディオルームの8kHzのエコータイムパターン


 やっと新しい測定システムに慣れ、チューニング施工前と、施工後の両方のデータが初めて揃ったためにデータの解析に2週間も日時がかかってしまいました。やっと完成したので、改めてルームチューンの感想を伺ってみました。

○サーロジックのルームチューン施工後の音
 ルームチューンを施工した瞬間部屋の空気が変わりました。自分の出した声に独特の響きがつき更に声が通りやすくなりました。スピーカーの後ろのみに装着した時の音は、とてもフラットな音がしましたが、面白みがない音でした。更に中央とスピーカーの前の床にルームチューン材を設置することにより音に“美味しさ”が付加しました。最終的な音は、ほぼフラットな音でありながら、充分に美味しさが味わえる理想的な音になりました。
 
ルームチューンにより、これほど癖が取れるとは思いませんでした。



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